砂糖菓子より甘い恋1

雅之は杯をゆるりと盆に戻す。

「待たせたな」

と、そう間もおかずに龍星が帰ってくる。

「邪魔だろう?俺は帰る」

直球で言い切ってしまうあたりが、雅之の雅之たる所以だ。
龍星は再びそこに座り、楽しそうに笑った。

「邪魔ならわざわざ誘いになんていかないよ」

言いながら、再び杯を手に取る。

「そうかな?」
「そうだ」
「そうか」

雅之は半信半疑ではあるが、再び杯を手に取った。

「人は何故、鬼になったりするのだろうか」

雅之は、川岸に眠る鬼を思いながら口を開く。

「原因はいろいろあるだろうが、一言で言えば執着、かな」

「執着か」

「憎悪であれ、愛情であれ、深い執着は人を鬼に代えるのだろうよ。
 実際、御所あたりにもたくさんいるではないか。
 出世に執着しすぎるものの目つきに、鬼を感じぬか?」

あざ笑うような物言いには、同じ宮仕えの身として返事をしかねる雅之。
もっとも、雅之は過度に出世を期待するような男ではなかった。

雅之は話題を変える。


夜闇は一層濃く深くなっていく。
他愛ない話を肴に酒を飲む二人の男。

春風が夜の闇に溶け込むように流れていく。



まだ見ぬ明日に向かって。


【了】