青年の笛が切ない音で綺麗な調べを奏でるのを、釈然としない想いで夜な夜な聴いていたのが、椛だった。

これでは、亡き桜に勝つことも出来ない。

なんとかしなければ!!!

そして、椛は桜を掘り出し、その着物を自分で着て、裸にした遺体を燃やすことにした。
例の桜の木の下で服毒し、近しいものに金を渡して桜の木の下へと遺体を埋めさせた。

青年は、桜の木の下の遺体がすりかえられたことにも気づかず、その命が尽きるまで愛しい想いを笛にのせて奏で続けたのだった。



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「やりきれない話だな」

話を聞き終えた雅之は、ため息をついた。

「鬼になるようなものが語る話はどれも似たり寄ったりさ。
 そう、感情移入しないことだな」

龍星は遠くに眼をやりながら、さらりと言った。

「それにしても。
 千姫は何を思って桜の下から鬼を拾ってきたのだろうか」

「似てたんじゃないか?
 波長が」

「いや、千姫は十分美人の類だろう」

噂に疎いというのは、時に罪だなと龍星は思う。

「……あの男がどうして千姫を正妻に選んだか知っているか?」

「いや」

「……まぁ、いろいろあるのさ」

「ふぅん、いろいろあるのか」

「そういうことだ」

いろいろ、か。
良くは分からないが、きっと恋の数だけいろいろとややこしいこともあるのだろうと、雅之は自分を納得させて杯に残っている酒を一気に煽った。