安倍邸の一室では、毬姫が眠り続けていた。龍星は、花の精から報告を受ける。
花の精とはいうものの、背格好はその辺りの女房と変わらない。その上、着ているものや容姿は宮中の姫君にも引けをとらぬものなので、妖力を持たぬ雅之には、実のところ、彼女が何者なのか掴めない。
人なのか、人にあらざる者なのか。
もっとも、雅之にとってはそれがどちらであろうが大勢に影響はない。
この庭でいつものように龍星と酒を酌み交わせれば、それで良かったのだ。
「姫は?」
「明日にでも目覚めそうだな」
「そうか……それはよかった」
雅之は胸をなでおろす。でも、すぐその表情を不安で曇らせた。
「左大臣は姫を受け入れてくれるだろうか?」
「さぁな」
正体の良く分からぬもの……見目麗しい女房にしか雅之には見えないのだが……に、酒の準備をさせているのを眺めながら、龍星はこたえる。
「さぁなって。
心配じゃないのか?」
「姫がどうしても左大臣家に帰りたいといえばそのように取り計らうさ。
でも、もともと嵐山で長く過ごしていた身だ。
案外、都暮らしは退屈なのでは、とも思う」
「嵐山に連れて行くのか?」
「いや……
そんなことは思いもよらなかったよ」
ではどうするのだ、と、気色ばむ雅之を見て、龍星は面白そうに微笑む。
「それは、姫が目覚めてから聞いてみるとするよ」
「それはそうだが」
と、雅之は心配そうだ。
実直なこの男は、おそらく、石橋をたたいて壊し、岸の向こうを指を銜えて眺めているタイプなのだろう。
川に船を浮かべるとか、別の橋を探すとか、自分で橋を架けるとか。
そういうことをすれば良いだけなのに。
すっかり酒の準備が整った、
「さて、どこから話そうか?」
杯を片手に、龍星は紅い唇で笑みを作った。
花の精とはいうものの、背格好はその辺りの女房と変わらない。その上、着ているものや容姿は宮中の姫君にも引けをとらぬものなので、妖力を持たぬ雅之には、実のところ、彼女が何者なのか掴めない。
人なのか、人にあらざる者なのか。
もっとも、雅之にとってはそれがどちらであろうが大勢に影響はない。
この庭でいつものように龍星と酒を酌み交わせれば、それで良かったのだ。
「姫は?」
「明日にでも目覚めそうだな」
「そうか……それはよかった」
雅之は胸をなでおろす。でも、すぐその表情を不安で曇らせた。
「左大臣は姫を受け入れてくれるだろうか?」
「さぁな」
正体の良く分からぬもの……見目麗しい女房にしか雅之には見えないのだが……に、酒の準備をさせているのを眺めながら、龍星はこたえる。
「さぁなって。
心配じゃないのか?」
「姫がどうしても左大臣家に帰りたいといえばそのように取り計らうさ。
でも、もともと嵐山で長く過ごしていた身だ。
案外、都暮らしは退屈なのでは、とも思う」
「嵐山に連れて行くのか?」
「いや……
そんなことは思いもよらなかったよ」
ではどうするのだ、と、気色ばむ雅之を見て、龍星は面白そうに微笑む。
「それは、姫が目覚めてから聞いてみるとするよ」
「それはそうだが」
と、雅之は心配そうだ。
実直なこの男は、おそらく、石橋をたたいて壊し、岸の向こうを指を銜えて眺めているタイプなのだろう。
川に船を浮かべるとか、別の橋を探すとか、自分で橋を架けるとか。
そういうことをすれば良いだけなのに。
すっかり酒の準備が整った、
「さて、どこから話そうか?」
杯を片手に、龍星は紅い唇で笑みを作った。


