「いやいや、すまぬ、雅之」

全く反省の色もなく龍星は雅之の肩を叩く。


「左大臣も何かしらお前に占って欲しいそうだ」

「あのタヌキか」

左大臣は先頃長女を入内させ、もう天下をとったかのように振る舞っていた。

「まあそう言ってくれるな。俺の父も左大臣には頭が上がらないのだよ」

「仕方ない。外ならぬ雅之の頼みだ。断るわけにもいくまい」

「ありがとう。恩に着るよ」

素直に頭を下げる雅之を見て、

「お前は本当に良い男だな」と、龍星は艶っぽい紅い唇でそういった。

言葉ごと掠うかのように、刹那、一陣の風が舞う。

「何か?」
聞き返す雅之に

「いや、つまらぬ戯れ事よ」
と、龍星は軽く笑って答えなかった。