龍星には、外の雰囲気で左大臣の帰宅が近いことが分かる。

一番面倒なのが、ことが起きた後の説明だ。
人々は、鬼や妖怪の存在に対して半信半疑だし、納得のいく説明を求める。

「あれは全て鬼のしたことです」

の一言だけでは、決して納得しないものなのだ。

今から起きる厄介ごとを想い、軽くため息をつくと、それまで勝手に屋敷の中を調べまわっていた龍星は、まだ何も察していない雅之を連れて玄関に向かった。
もっとも、雅之は龍星に勝手に振り回されるのには慣れているので、さして何も口にしない。

「龍星殿、うちに何をもたらした?」

タヌキがひどい剣幕で一方的に捲くし立てる。

まぁ、一般的な市民の反応だ。
呪術師のことは厄介をもたらすものくらいにしか、考えていない。

「そんな一方的に!」

と、憤慨して見せるのは雅之の方だが、龍星は表情を変えず雅之すら制止して口を開く。

「勝手に入り込んで申し訳ありません。
 帝からのご命令でしたので、説明させていただく時間も取れませんでした」

と、淡々と詫びの言葉を述べて見せた。

権威をかさに着せる人間には、より強い人の名前を出すのが手っ取り早い。
それに、左大臣も、今日御所で帝が龍星の元に出向いたことを知っているはずだった。

分かりやすく、タヌキは口を閉じる。

「よって、詳しい説明は明日、帝の御前でお話させていただきたく存じます。

 御台様(=千姫)にもご同席いただきたいので、左大臣様も、是非ご一緒に。

 それで、よろしいでしょうか?」

気圧されたタヌキは、

「わ、分かった」

と、しぶしぶ了承した。

「ところで、屋敷の者たちは無事なのか?」

毬以外のものは、そのとき、倒れて気を失っていて何も覚えてはいないし、身体に異常もなかった。

「毬姫様以外は」

言った途端、さっとタヌキの顔色が変わり、龍星に詰問した。

「毬が……あやつが嵐山のあやかしを連れてきたのではあるまいな?!」

「まさか」

と、とっさに口にしていたのは事の成り行きを見ていた雅之のほうだった。



龍星はといえば、無表情のまま喉元までせり上がってきた感情を飲み込むのにかつてないほどの努力を要していた。