そして、すぐに入口を護符で封印して、毬の元へと駆け寄る。

真っ青になってしゃがみこんでいるのは、大量出血のせいか。

「毬姫」

服を裂いて、肘にきつく巻きつけ止血した。
どうして、それさえも雅之にやらせなかったのか。

毬は特に、龍星を拒む様子は見せなかった。

「龍星?」

毬は我に返って瞳を開ける。
そして、龍星を頭から足まで見回して微笑んだ。

「良かった。怪我とかしてなくて」

耳を疑うような、衝撃的な発言に何事にも驚かない龍星の心臓が、どきりと跳ねた。

「さっき、私に桜の花びら渡してくれたのは、別の人だよね?」

龍星の動揺には微塵も気付かない様子で、祈るように毬が問う。

「桜の花びら……ですか」

考え込む仕草に、毬は唇をかんだ。

「ごめんね。
 それ、あなたに……あなたにしか見えない人から貰ったの。
 だから、護符にはさんだんだけど。
 多分、そのせいで

 ほら、真っ黒。

 だから、きっと雅之だって別人だったのに」

頭に酸素が回らないからか。
発言がおぼつかない。

もっとも、落ちている破られた護符や、桜の花びらの話には心当たりがあるので、それだけで龍星には今回の件の概要は理解できた。


「どうしよう。

 怒ってるよね?」

どういう思考回路をしているのか。
どれだけ人が良いのか。

龍星は内心、感心を越えてあきれてきた。

どう考えたって、本日の件で一番心も身体も傷ついているのは毬だ。

「怒らないように私から説明しておきますから。

 すべて忘れて、今は気にせず眠りなさい」

少し強く暗示をかけ、強引に眠らせた毬を軽々と抱き上げた。