龍星の好きな酒を持参してきた雅之は、何を切り出すでもなく、雑談をしながらすまなそうに朧月を見ていた。

「あの男からの言伝か?」
あまりにも雅之が言いづらそうなのを見兼ねて、先に龍星が切り出した。

「ああ、すまない。こんな役目、引き受けたくなかったのだが」

精悍な顔を曇らせて、雅之は憂鬱なため息を吐いた。

「ただの言伝ではないか、雅之。貴殿が滅入ることではないぞ。寧ろ、滅入るのはこの俺の方だ」

「帝はお悩みなのだ。京はこの頃桜の下にすむという鬼の話で持ち切りだからな。ひどく怯えてらっしゃる」

「なに、本当に怯えるべきは、味方のふりをしているだけの家臣どもではないか」

あの男、本当になにも分かってないなと、龍星は酒を仰ぎながら声高に笑う。

「龍星」

真面目な雅之は、その不謹慎な態度を窘めた。