お嬢様はじめました。

ベッド脇の椅子に座って居る年配の男性とバチッと目が合った。


咄嗟に俯いてしまい、ちょっと気まずい気持ちになった。



「私の名は宝条院 重忠(ほうじょういん しげただ)。 菊代の前夫だ。」



反射的に顔を上げるとまた男性と目が合った。


今度は逸らすことなく、その目をジッと見つめた。


『重忠さん』……その名前は何度も聞いた事がある。


だってお祖母ちゃんはいつも幸せそうな顔をしてその名前を口にしていたから。



「私の……っ、おじいちゃ、ん……だよね?」

「お前さんにどう思われていようと、葵は私の可愛い孫娘だ。」



視界がどんどんぼやけていく。


一度溢れた涙は中々止められなかった。


頼れるような親戚は誰一人いなくて、私は独りぼっちなんだって何度も思った。


本当はずっと心細かった。