息を大きく吸って大きく吐く。



うるさい心臓を黙らせようと、胸に手を当てた。




深呼吸もいっぱいするけれど、それは黙ってくれなくて。




近づいてくる君をチラッとみて、下を見る。



…チャンスは今だけ。




大丈夫、言える。大丈夫。



そして、すれ違おうとした瞬間に、



「お…」



おはよう。それを言うつもりだった。






でも弱虫の私にはそれができない。





その影は私の横を通り過ぎて、スタスタと歩いて行った。




「…意気地なし」



自分に向けて、そう呟いた。