「……大事なものがある」
「……?」
「絶対に渡したくない、大事なものが」
清水くんが、浮輪を掴んで、私の方へ渡してきた。
大事なものって、浮輪?……そんなわけないか。
もっと、深刻な問題だよね、きっと。
「……で、さっきの浮かんでた遊び、面白いわけ?」
「えっ…別に、面白くないよ…!
さっきはいきなり日笠くんに足掴まれて、
水中から出てきたとこだったというか…」
「ふーん」
興味なさそうに呟くと、遠くから「翔真くーん」って呼ぶ声が聞こえた。
あの声は…美紀ちゃんだ。
「清水くん、美紀ちゃん呼んでるよ。
早く戻ろう」
「……」
浮輪を持って、声がする方へ歩き出した瞬間。
ぐんっと体が後ろに引っ張られ、手から浮輪が離れる。
そのままバチャンッと音をたてて、頭まで水中に沈んだ。
急いで水面に顔を出そうとするも、腕を掴まれてて出来ない。
水中でおそるおそる目を開けると
また、あの時と同じように、
至近距離の清水くんを視界に捉え、柔らかいものが唇にあたった。
水の中だからか、
前よりも、温かく感じた。



