『もしかして繭ちゃん…嫉妬?』
「ッ――!!」
まんまと図星を突かれてしまった私は、フイッと岩崎先生から顔をそむけることしかできない。
そんな私を見た先生は、さっきとは打って変わって、嬉しそうに口元に弧を描いている。
ドアミラーで丸見えなんだよ、バカ。
そんなこと思いつつも、中々先生の方には顔を向けられないでいる私。
『繭ちゃん。…繭ちゃん、おーい?』
「うるさい、先生」
ツンツン、と私の剥れた頬を突いてくる先生の手を払いのける。
『ごめんって。』
「……。」
『来年からは誰からももらわないから。な?』
来年からじゃなくて、今年からそうして欲しかった、なんて思った私は、相当嫉妬していたらしい。
朝からあんなに複雑な思いを抱えていた元凶が発覚したのは良いものの、それを収束させる手立てが自分では思いつけない。
「岩崎先生なんて、そのドリンクで十分なんですよ。」
『うん、ゴメン。』
直後、背後から暖かいものに包まれた。
岩崎先生が私を後ろから抱きしめているこの状況が、いつもだったら恥ずかしくてすぐ逃げようとする私なのに、どういうわけか、拒み切れずにいた。
『もう繭ちゃんからのチョコしかもらわないから。約束する。』
「…。」
『だから…機嫌直して。ご飯食べに行こう?』
「…やです。」
いつもこうやって、素直になりきれないのは私の悪いところ。
でも――…
「約束ですからね、先生。絶対、守ってくださいよ?」
『うん。』
「じゃあ、帰りましょう。」
『え、ご飯――…』
「帰りますよ。先生」
先生の腕を解き、このまま私のマンションに向かうように先生を急かす。
あれだけ期待されてたんじゃあ…作らないわけにはいかないじゃない?
大きく項垂れながらも、エンジンをつけた岩崎先生を横目に、私は笑みをこぼす。
バレンタインの翌日、私の手作りチョコをもらった岩崎先生が子供のように喜ぶのは、また別のお話。
(来年は、ちゃんとチョコを作ってあげよう。)

