「胃もたれにも効くんで、良かったらどうぞ。」
『え?あ?うん、ありがとう…?』
まだちょっと、よく事態を呑み込めていない岩崎先生を気にも留めず、私は帰ろうとする。
「じゃ、お疲れさまでした。お先に――…」
『ちょちょちょっと待って!』
「えっ、」
そのまま別れを告げて降車しようとした私の右腕を掴んだ先生は、素早く車のロックまで掛けた。
掴まれた右腕に驚いて先生の方に振り向けば、何故か泣きそうな顔をした岩崎先生と見つめあう。
『そうじゃなくて…いや、俺の健康を気遣ってくれるのは嬉しいんだけどさ。』
「?」
『俺は、繭ちゃんの手作りチョコが欲しかったんだけど。』
「……。」
――なんと、前田先輩と小島さんの言っていたことが、正しいとは。
「でも、先生…色んな方からチョコもらってるじゃないですか?」
『いや、それとこれとは別でしょ?』
「え?」
別?
お互い、見つめあったまま、数秒沈黙する。

