去年のバレンタインでは、彼女が岩崎先生に明らかな本命チョコを渡していたのを、私はこの目で見てしまっているわけだし、
最近、風の噂で、小島さんが岩崎先生のことを諦めたなんてことを耳にしたけれど、本人から聞いたわけでもないし、
……かと言って、それを本人に確かめるような勇気も持ち合わせていない私は、勝手に小島さんに対して複雑な気持ちを持ち続けたままだった。
『岩崎先生も大変だよね~!』
「……!」
まさか、小島さんからその話題を振られるとは思ってもいなかった私は、あからさまに息を詰まらせてしまう。
動揺を隠せていない私に反し、小島さんは至って笑顔で続けた。
『咲坂さんは、もう岩崎先生にチョコ渡したの?』
「えっ……あ、ううん。渡してないよ。」
今日、何回聞かれたか分からないこの質問に、正直に答えると、小島さんは苦笑いを溢して見せる。
『じゃあ、これから?』
「いや……チョコは渡すつもりはないんだ。」
『えっ、用意してないの?』
「うん、まぁ…ね。」
そっかー、と言って、小島さんは白衣をハンガーにかける。
『でも、岩崎先生は咲坂さんからのチョコ、欲しいと思うよ?』
「…どうだろう、あんなにチョコもらってるとこ見ちゃうとね。私が同じものあげてもって、感じがしない?」
『まぁ、私も咲坂さんの立場だったら複雑かもね~』
そう言いながら、“…なんて、今年はチョコを渡す相手もいない私が言うのもアレだけど。”と苦笑いする小島さんに、私は驚きを隠せなかった。

