名残惜しく、千尋との通話を切ったあと、私はダイニングに向かった。


『早くしないと、そばが延びちゃうわよ。』

「ん…分かっとる。」


電話をポケットにしまって、自分の席についた私に、3人からの好奇な視線が集中した。


「な、なに…?」

『電話、高遠くんやろ?』

「っ!」


鋭いお兄ちゃんからの問いかけに、私は酷く驚いてしまう。

動揺が隠しきれなかった私を見て、確信したお母さんとお兄ちゃんは、さらにニヤついた顔を深めた。


『高遠くん…?』


高遠くんのことを知らないおばあちゃんは、最初、訳が分からなかったようだけれど、ダイニングに漂う空気と、長年の勘によって、私が赤くなっている理由を悟る。


『へぇ…翔ちゃんも、ひなちゃんに負けとられんばい。』

『おっ、俺は別に彼女とか興味ないだけやき……!』


ちょっと人とは考えているところがズレているおばあちゃんの言葉でとんだとばっちりを受けたお兄ちゃんによって、和やかな2016年を迎えた小日向家。


(今年も…千尋と大切な時間を過ごせますように)


元旦、太宰府天満宮の参拝で、学問成就で有名な菅原道真公に、そう願ったのだった。