挨拶も終わって、
早速練習に取り掛かった。
今日のメニューは主に体力づくりで、
腕立て伏せ、腹筋、背筋、それぞれ50回ずつを5セット。
受験で体が鈍っていたせいか、
ほとんどのやつが悲鳴をあげていた。
……もちろん、俺も…
「______よし、終わったやつから自主練していけ」
東山のその一声で、俺達はすかさず自主練へと移った。
今日は素振りをするか、
それとも走り込みするか…
「圭吾、久々に競うか?」
何をしようか悩んでいた俺に、
丁度5セット終わった様子の南が
ニヤリと笑ってそう言ってきた。
久しぶりのこの感覚。
南と競い合うなんていつ以来だろう。
俺は嬉しくて、今の今まで疲れ果てていた顔が、一気に満面の笑顔になった。
「望むところ!」
つられて南も満面の笑顔を見せた。
「よし、じゃ、まずは体力勝負だな」
そう言って移動してきた場所は
学校を囲むようにつくられている道。
つまり " 外周 " と呼ばれている場所だった。
南によると、この外周は一周で1000mらしい。
「この外周を6周走って、どっちが先にゴールするかが勝負だな」
「給水とかもねぇの?」
「んなもんあるわけないだろ」
「うぇー……ストイックすぎんだろ…」
「ほら、始めんぞ」
そう言って南は走り出す体制に入った。
正直受験や勉強で大した運動なんてできていなかったけど
そんなものただの言い訳にしか過ぎない。
今度こそ絶対に勝ってやるんだ。
俺も南と同じように走り出す体制に入る。
「行くぞ、___3、2、1……」
その合図で俺たちは同時に走り出した。
先に前に出たのは俺だった。
その俺についてくるように
すぐ後ろを南が走る。
まだ行ける、まだ行ける。
俺の中で丁度走りやすいリズムを刻みながら
徐々にスピードを上げていった。
だんだん南が遠ざかっていくのがわかる。
でも、このままこのスピードを絶対保てるとは限らない。
南は絶対あとからスピードを出してくる。
そんなこと頭でわかっていても、
勝ちたい、南よりも常に前を走っていたいという気持ちが
俺をコントロールしてくれなかった。
まだ行ける、まだ行ける…___
____ 外周3周目。
こんなに学校の周りはでかいのかと思わせられるほど
1000mという距離を長く感じた。
そういえば南の気配をまだ全く感じない。
少し心配になって、チラッと後ろを振り返った。
見ると、俺より200mくらい離れた場所にその姿はあった。
………歳か?
いや、俺と一年しか変わらないのにそれはないだろ。
やっぱりあれか、最後に抜かしてくる作戦か。
なら、俺は抜かされないように距離を保つしかないな…
俺はさっきよりも少しスピードを上げた。
____ 外周5周目。
南は、まだ俺の後ろ。
よし、このまま圧勝してやる!
でも、自分の荒くなっている呼吸を聞いていると、
だんだん疲れてきた。
やっぱり景色がずっと同じだと
余計疲れるもんなんだな…
丁度グラウンドの真横を走っていたから、
俺は外で部活してるやつらを見て
疲れた気を紛らわそうと目をやった。
そこには、サッカー部と、陸上部
奥のテニスコートにはテニス部
そして……
一人の女子が、サッカー部のゴール前に立って
誰かを探すように外周の方を見ていた。
外周って俺ら以外に誰か走ってたっけ?
気になったけど、それよりも疲れの方が大きかった俺は、とにかく南に勝つことだけを考えて
グラウンドの真横を通り過ぎた。
_____…ザッザッ……
……ん?なんだ?この音
背後から少しずつ近づいてくる音と気配に