あ。あの人絶対野球部だ。



教室に入ってきた瞬間、
丸刈りだからすぐわかった。


目が鋭くて、体型もほどよくガッチリしてて、
いかにも野球してますって感じ…


はぁ。やっぱりかっこいいなぁ。
私も男性に生まれてたら、絶対に野球してたよ…


「ちょっと、なに、そんな一点をじーっと見つめて。
まさかついに気になる人でもできたの!?」


「ちがうよ!あの人野球部なんだろうなーって思って」


私の隣の席のこの子は、中学の頃からの親友、宇野詩織(うの しおり)。
黒色のストレートロングでとにかく可愛いんだ


だから中学の頃しょっちゅう告白されてたのに
どうも好きになれない人ばっかりだったらしくて
なんとこの容姿で彼氏いない歴16年。



……もったいなすぎるでしょ…



詩織いわく、この西高校はイケメン率が高いから入ったらしい



たしかに教室を見回してみると、
イケメンなオーラを漂わした人たちが
たくさんいるように思える。



さすが詩織



さっきから男子への視線が鋭い……






私は大好きな野球部のマネージャーになろうと思って
詩織と一緒にこの高校を選んだ。



でも実際は、
前から憧れている南先輩がいるって聞いて
この高校に入ろうって決めたんだ。



南先輩はとにかく野球が上手で
私が中学の頃、詩織とたまたま地元の試合を見に行ったときに
憧れの存在になった人。



試合が終わったあと、
観戦していた場所で詩織と話していたら
どこからかボールが私のところに転がってきて


それを拾いに来てくれた人が南先輩だった。


最後に笑顔で
「今日の試合、見に来てくれてありがとう」



って



それが
これからも南先輩の試合を見に行きたいなと
思うようになったきっかけ。





早く野球部のマネージャーに入部して
もう一度近くで南先輩に会ってみたいな…









「よぉーし!お祝いテスト始めるぞー!」





突然の担任の北見先生の声で我に返る。


見ると北見先生は、
右脇におそらくテストであろう紙の束を抱えて
私たちの反応を面白そうに見ていた。



……え?



クラスがどよめき出すのも当たり前。
だって私たちはお祝いテストがあるなんて、
誰からも聞いていなかったんだから。




「うそでしょ?ほんとに今からテストする気?」


今すぐ帰りたいと言わんばかりの表情を浮かべて
詩織が私に問いかけてきた。



「わかんない…あたし何にも勉強してないよ」



" お祝いテスト " っていうくらいなら、
せめて簡単な問題ばっかりであってほしい……





「先生俺そんな話聞いてないっすよ!」



ざわついている教室の中、
みんなの思ってることを突然誰かが代弁して言ってくれた。



その人は少し細身で、
170cmくらいの頭をまるめた人。

その人が手に持っている筆箱には、
たくさんの野球ボールのキーホルダーがついていた。




……あ。今言ってくれた人も野球部だ。



このクラス、野球部二人いるんだ…



そういえばさっきの人、名前なんて言うんだろう?
あたしの前の席の人だよね。



そう思って前の人に目をやると、
その大きな背中についドキドキしてしまった。




私はパッと、前の人から目を逸らした。



なんだか同じ高校一年生とは思えないほど
体つきがもう大人だ。



この人も野球、上手なのかな?





私、結構人見知りだけど
いつか仲良くなれたらいいな…