「別れよう。」

突然先輩から紡がれた言葉。
その言葉にひどく私の頭は混乱し脳の動きを鈍らせる。

「なん...でですか。」

ひきつる喉からかろうじて出た言葉に先輩は私から目をそらす。

どうして目をそらすの?

何か気に触るような事した?

別れようという言葉の意味を理解し目元がじんわりと熱くなり、胸が苦しい程に締め付けられる。

嘘だよって、笑ってよ。
こんなのただの悪い夢でしょ?
いつもの笑顔を浮かべて...先輩。

「私は...私は別れたくないです...。」

必死になって言葉を紡げば先輩はますます顔を歪める。

まるで、先輩の方が苦しんでいるかのように。

「何か言ってくださいよ...先輩。」

お願い、別れたくない。
絶対に別れたくないの。
私の事好きじゃなくても良いから別れないでよ...お願いだから...。

私を手放さないでよ...。

「別れよう。」

再び紡がれた言葉は私の心にズンとのしかかり更に胸を圧迫する。

心臓が痛いくらいに激しく動き涙もぼろぼろと零れ床に冷たい痕を残して行く。

「いや...いやです...。先輩の事が好きなんです。」

緩く首を横に振りながら否定の言葉を伝える。

「...ごめんな。」

先輩の手が私の頭をぽんぽんと撫でる。
それは何回も私にしてくれた優しぃ温もりでいつも安心を与えてくれた。

だけど今日はただただ切なくなるばかりで、安心なんて出来なくて...。

「前にお前に挙げたネックレス、お前がまだ俺の事を好きだって言ってくれるなら持っていて欲しい。」

制服の下に隠してつけてるシルバーのネックレス。

それはずっと先輩が持っていた物らしくて1ヶ月記念に先輩がプレゼントしてくれたものだ。

「はい...。持っておきますから...ずっと持っておきますから、別れないで...。」

先輩はまた顔を歪めて自傷的な表情をする。

「......ごめんな。」

その言葉を私に残し先輩は私の横を通り抜け夕暮れの教室を出て行った。

わずかに残された先輩の匂いと温もりがなくなっていくそれが、私に恋の終わりを告げる。

「...っ...あぁ...うぁぁ......っあぁぁ.....。」

足に力が入らずその場に崩れ落ち、ネックレスを握りながら鳴き声を漏らす。

辛かった...ただただ辛かった。

今までの楽しい事が全て思い出に変わってしまった。

もう、あの頃には戻れない...。

後に残ったのは空虚感と悲しみだけだった......。