-魔の湖-






 ざぶっ







 シオン様が私を抱き上げ、湖から陸へとあがる






 抱かれたまま、驚愕の事実に思いを馳せていた
 
 




 『私は自分の意思で、死を選んだんだ・・・』








 さっきシオン様が私を湖に突き落としたのは、私の記憶を戻すためだった








 
 恐怖が安堵に変わった瞬間、私は全身の力が抜け、いよいよシオン様にもたれかかる体勢になった






 シオン様は、額を私の額にあて、懺悔した







 「ここで、何も知らないままで過ごせばいいと思っていた

 そうすれば、幸せになれると信じていたんだ

 だが・・・レンが、思ったよりもずっとユーリに執着してしまって・・・

 自由を望んだのに、ここでも自由になれなかった

 結果、完全に蓋をしたと思っていた記憶が、自由を求めて覚醒しかけてユーリの精神を浸食していった

 今はもう、紫色の世界じゃないだろ?」








 言われて気づく







 確かに、視界はもともとの色を取り戻していた








 私がこっくりと頷くと、シオン様は額を離してやはり、と言うように笑った







 「中途半端な覚醒が解けたからだよ」








 そしてまた言葉を続けようとしたが、シオン様の顔からすっと表情が消える











 『・・・シオン、様・・・?』






 不安になり、名前を呼ぶ






 するとシオン様は、ちっと舌打ちをして焦ったように言った







 「・・・カナデに、ばれた。
 連れ戻されるぞ」









 ぶわり、白い煙があたりに立ち込める









 そう、シオン様が初めて私と会った時のように










 その煙は、瞬く間に私たちを包み込み、目の前を真っ白に染めた