しばらくして降ろされた道は、裏路地のような場所だった






 そこの道は天界と違ってレンガではなかった






 コンクリートで舗装された、道路







 立ち並ぶ、高層ビルの数々







 たくさんの、人間






 あちらこちらから溢れる、大きな音







 ・・・ひどく懐かしいような、風景








 『私、こんな雰囲気の場所、知ってるような気がする』








 コンクリートも人の波も、ああいう大きなモニターも





 全部、懐かしく感じる






 「懐かしい、か?まあ、そう思うだろうな。

 ここが魔界・・・地獄と呼ばれる場所だ



 天界よりもたくさん人間がいるだろう?」

 



 きょろきょろとあたりを見回す私の肩を抱き寄せて、シオン様は歩き出した





 裏路地から出て、雑踏にまぎれるように早足でどこかへと歩く







 『とても、たくさん・・・。天界は、こんな風じゃなかった』






 
 わけのわからない不安が襲ってくる





 
 懐かしいのに、ここにはいたくない。





 
 僅かに震える体






 シオン様は、気遣ってか私を抱き寄せる腕に力を込め、体を密着させた






 「普通の人間は、ほとんど魔界に送られてくるからな。


 天界送りにされる奴が少ないんだ



 ユーリは、何が判断基準だと思う?」






 目線だけをこちらに向け、シオン様が問うた





 魔界、地獄へ送られてしまう、判断基準・・・?






 『生きているときに、悪い事をしたからじゃないんですか?』






 首を振られた。きっと違ったのだ





 
 
 悪い事をした償いをするために地獄に送られるものだと思っていたから、これが違うとなると、もうわからない







 わかりません、と言うとシオン様は、明らかに声をひそめて言った

 




 「自己愛が強いやつが、魔界に送られてくるんだ」






 自己、愛・・・?





 思わずオウム返しにしてしまう





 自己愛が強かったら、どうして魔界に・・・?







 頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ






 くくく、と笑い声が至近距離から聞こえてくる





 
 私が滑稽なのだろう





 

 「天界は、幸せの象徴、だろ?

 争いごとを起こしちゃいけないんだ

 まあ昔は悪い事をした人間が魔界送りにされていたんだがな


 行動を起こさないだけで、心はすさまじいほどに悪いやつっているだろ?

 そういった類のやつが一回天界でやっちゃったんだよ、争いごと

 流血沙汰というか、殺したな


 それから、心の中、表面だけじゃなくて深層心理まで見てから死後どっちに送るか決めていたら、こうなったんだ


 結局王の言う事だけを聞く従順なやつってのは、自分を信じていない、自分が嫌いな人間だったってわけだよ」






 シオン様はさも当然と言いたげに語った






 でも、私は、思考の波に溺れかけていた






 自分を、信じていない
 自分が、嫌い・・・?




 

 『私、天界にいるってことは、そういう人間だったって事ですか?』