彼女の強がりは意外にも効果があった。

ぽかぁん。
風船のようにふわふわしてそうなんだけど、その跳ね方はボールの様にぽぉんと言った感じ。
そんな響きが彼の今の表情を例えるのに良く似合う。

“え、聞いてなかったの?”

呆れているような、それに気付かなかった自分に驚いているように彼は呟く。
そんな隙だらけの彼の顔を見ていると、彼女は頬が緩んでしまった。
まだ彼がこんなに手の届く所にいると分かったのだから。
振り絞った勇気と不安で真っ白だったのに、“なんとか出来る”という安心感。

“コーヒーおいしくない。”

“嫌いになったら、あんたのせいだからね。”

“どう責任とってくれるの。”

“理由になってない訳わかんない。”

“別れたくないよ。”

さっきまで言おうと思っていた全部の言葉。
それは全部心に仕舞っておく事にした。
優しいJAZZにのって踊る雨音のリズムを聞きながら、ゆったりとした心持でコーヒーをもう一飲みして空にする。

“スイマセン、御替り下さい。”

何時もの彼女の顔でウェイトレスに軽く声を掛けた。

静かな、他にお客さんもいない店内なものだから二人の話は筒抜け。
それでもウェイトレスは清ました顔で“同じモノで良いですね?”と確認する。
彼女はついでにメニューを持ってきてくれるようにお願いした。

“あなたが突然疲れる話するものだからお腹空いちゃったじゃない、何か食べましょう。”

サンドイッチにパフェ、ホットケーキも良いなとメニューを巡らせ彼に聞く。
彼は別れ話が気付けば食べ物の話になっているのに付いていけない。
このまま有耶無耶にされてしまいそうで何か言わなきゃと思うけど頭が働かない。
気転の聞いた事を言わなきゃと思い、パフェなんてどうでも良いじゃないかと切り出そうと心に決めた。

“パフェ・・・・。”

“パフェがなんなの?”

その普段どおりの対応に何故かドキッとしてしまい彼は続きが言えない。
不思議そうに尋ねる彼女に彼は言う。

“太るよ・・・。”

“やかましい、誰のせいで甘いものが欲しくなったの?”

あまりにも気の効かない一言に彼女が毒づいた。
普段どおりの軽口になってしまった。