おいてけぼりティーンネイジャー

心配そうな尾崎と茂木に手を挙げて謝り、まだ変な空気の客席に向かって言った。

「えー、予定を変更して、次は『ennuiな君に』。実は、この曲のモデル、というか、僕が勝手にモデルにさせてもらったヒトが会場に来てくれてます。中学生の僕が当時、伝えられなかった想いを込めて……」

絶妙のタイミングで尾崎が前奏を始めてくれた。
俺はギターをエレキに持ち替えて、出し得る限りの高音でギターを泣かせながら演奏した。

天真爛漫だったあの頃の俺。
アリサの痛みも傷もわからないまま、ただ自分の前向きな明るさで彼女を救えると慢心していた。

自分がどん底に落ちて、やっとわかったよ。
臆病な心というものを。

ねえ、アリサ。
今なら、もう一度、やり直せるんじゃないだろうか。
俺達、ちゃんとわかりあえるんじゃないだろうか。

その頃付き合ってた子が、会場にいたこともすっかり忘れて、俺は初恋に有頂天になっていた。
……まったく、どうしようもない男だよ、俺は。

ライブの後、楽屋にはアリサではなくて、恋人が来た。
「暎(はゆる)。どういうつもりなの?」
非難がましくそう言われて、彼女に対する想いが急激に冷めて霧散した。

「君には関係ないだろ。」
俺はそう言って、彼女の脇をすり抜けて、アリサを探しに行った。

気を利かせてくれた俺達IDEAのマネージャーに保護されて、アリサは不安そうに立っていた。
「アリサ!やっと会えた!」
俺はうれしくてアリサを抱きしめた。

「……一条さん……刺されますよ、彼女に。」
マネージャーが泣きそうな小声で俺にそう囁いた。

アリサを腕に抱いたまま振り返ると、彼女が唇を噛んで突っ立っていた。
「最低っ!あんたなんかのたれ死ねっ!」
金のない俺をさんざん食わせてくれた彼女らしい捨て台詞に、俺はちょっと笑ってしまった。
「ああ、畳の上では死ねないな。今までありがとう。君のおかげで生きてこられたよ。幸せになってくれ。」
俺はそう言って、彼女に投げキッスを送った。

彼女は赤くなって涙をボロボロこぼした。

……かわいいな。
俺の中に、再び彼女への想いがむくむくとこみ上げてきたけれど、俺を見上げるアリサの呆れた目に表情を引き締めた。

彼女、いや、元彼女が泣きながら走り去ってから、ようやく俺はアリサを解放した。

「……ステージから降りてきたときには、暎くん、変わってないと思ったけど……やっぱり変わっちゃったね……ひどい男になっちゃったね。」

アリサはため息をついて、伏し目がちにそう言った。
その目だ。
夢に何度も見た、アリサの瞳。

長くて黒いまつげは直線的に下に伸びていて、アリサの厭世的な表情によく似合ってる。