おいてけぼりティーンネイジャー

「音が……すごいな。たった2本なのに、深い。調和だけじゃなくて、幅があるというか。」
俺の言葉にそいつはうなずいた。

「そうなんだ!弦もだけど、管楽器はもっと幅があるよ。歌うようにコントロールしないと、音が平気で狂うんだ!でも幅があるって、おもしろいと思わない?」

おもしろい。
そうだ、おもしろいんだ。

手作りの楽器も、手作りのガット弦も、四分音符4つを自在にアレンジする奏法も、古楽譜のマイクロフィルムも、そして、こいつだ!

俺は久しぶりに気持ちが高揚し、人に興味を抱いた。
人並み以上に整った顔立ちに、人なつっこい笑顔と口調。
こいつの音楽センスや知識、楽器の腕前にも興味津々だ。

「じゃ、次。あれ、弾ける?」
そう言って歌い出した曲は、数年前に亡くなったロックシンガーの隠れた名曲。
いちいち選曲が渋いな。

「もちろん!……エレキでは得意だけど、コレはどうかな?」
「たぶん、すごーくイイ味出ると思うよ。」

そんな感じで、思いつくままにセッションを続けた。
夢中になりすぎて、気づけば終電がなくなってた。
「泊まってけばいいじゃん。」
さらっとそう言われて、俺はそのまま名前も知らない奴の部屋で、翌日の昼過ぎまで寝てしまった。
……起きた時には、既に必修の語学は終わってた。
あーあ。

「まあ、明日は必ず大学に行くとして、今度、これ弾いてみない?」
そして、エンドレス……いや、さすがにそれはまずい。 着替えもしたい。
何より、こいつに俺のエレキも聞かせたい。

結局、丸一日半、そいつと過ごした。
「また明日おいでよ。今度は仲間にも紹介するよ。家主にも、ね。」
「ああ。ありがとう。君、名前は?俺、一条。」

やっと聞けた。 

「尾崎。」
そう言って、尾崎は人なつっこい笑顔を俺に向けた。


翌日、1コマめの講義だけ受けて、俺は尾崎の部屋を訪ねた。
「うわ!すげぇ荷物!ここに住むの?」

そう聞いてきたのは、部屋の主の尾崎ではなく、その友達の茂木という男だった。
「いや、いろいろやりたいと思って。茂木くんは、何の楽器をするの?」

エレキやCDを出して見せながらそう聞くと、茂木は困ったように笑った。
「俺?歌しかまともに歌えないんだ。不器用で。尾崎みたいにイロイロやりたくて練習はしてるんだけどねー。」

茂木の屈託なく爽やかな笑顔と言葉が、何だかまぶしかった。
俺が高校時代につるんでたバンド仲間とは、あまりにも雰囲気が違い過ぎて。

同じように音楽をやってるのに、退廃的なところが全くない。

……なんか、いいな。