おいてけぼりティーンネイジャー

「こんな感じもいいと思わない?」
そう言ってから、そいつはまたリードをくわえて吹き出した。

ぴーひゃらぴーひゃらぴーひゃらぴーひゃら
さらに、首をかしげて

ぱらーらぱらーらぱらーらぱらーら
ぱらりらぱらーらぱらりらぱらーら
ぴーひゃらぱらりらぴーひゃらぱらりら

と、いくつものパターンを吹き続けた。
さすがに俺は止めた。

「やめろって。怒られるぞ。」
「うーん。どれがいいかなあ。」

そいつは、全く気にしてない様子で、再びマイクロリーダーを回し始めた。

……マイペースな奴。


「なあ、それ、何て楽器?オーボエみたいだけど、キイがついてなくて、リコーダーみたいだ。」
俺がそう聞くと、そいつは俺に楽器を突き出して渡した。

「バロックオーボエ。吹いてみる?俺と間接キスでよけりゃ。」
……吹けねーよ。

俺がただ笛を手にもってジッと見てると、そいつが言った。
「音楽やってんだろ?楽器は?」

「エレキギター。アコースティックはちょっと。あと、ピアノ程度。」
俺の返事を聞いて、そいつは急にマイクロリーダーをガーッと音をたて巻き戻した。

「俺ん家来ない?ちょっと弾いてよ。」
マイクロフィルムを機械から取り出して片付けながら、そういつはそう言って、人なつっこく笑った。

誘われるままに、俺はそいつの部屋にお邪魔した。
大学から徒歩15分。
コンクリート打ちっ放しのちょっと変わった……家?アパート?

「家主が趣味人らしくてね。俺の部屋は二階なんだけど、とりあえず、ココ。」
そう言って、入ってすぐの部屋に案内された。

いかにも重いドアの向こうは、スタジオ?
壁も床も防音仕様で、窓すらない。

真ん中に鎮座しているのは、装飾過多な小さなピアノ?オルガン?
「チェンバロ、弾いてみない?俺、弦も管もやるけど、鍵盤系がダメで。味のあるイイ音なんだけど。」

そう言われて、俺は鍵盤に触れてみた。
ピアノと白黒が逆でおもしろい。
……音の出方が違う!
そういや、ピアノは打楽器だけど昔のハープシコードは弦楽器って聞いたことがある。

「ハープシコードと一緒?」
そう聞くと、そいつはニッと笑った。

「一緒。ハープシードは英語、チェンバロはドイツ語とイタリア語、フランスではクラヴサン。」
へえ……。

俺は、チェンバロとお揃いらしい貴族趣味な椅子に座って、鍵盤に指を置いてみた。
指ならしに音を鳴らしてみる……おいおいおい。

「何だよ、これ!音、狂いまくってるぜ。調音し直さないと!」
和音が気持ち悪い不協和音を作る。

「……ほんとだ。ひでぇな。家主に言っとくよ。あーあ、せっかくチェンバロと合わせられると思ったのにな~。残念。……ギターも弾けるんだっけ?弾いてみる?」
ギターもあるのか!