おいてけぼりティーンネイジャー

帰り着いた新居は、ホテルのようなコンシェルジュサービスの充実したタワーマンション。
四重のセキュリティを誇るため、芸能人も多いらしい。

「すごい!ジムもあるんやって!」

部屋に入ると、既に綺麗に整頓されていた。
大量の本も、以前と同じように寝室に床から天井までの書架を作って並べてくれていた。

「暎さん!リビングだけじゃなくて!お風呂もトイレも、床から天井までガラス張り!外から見られへんんの?これ!」
真っ赤になって知織が走ってきた。

「走って転ぶと危ないよ。さすがに外から覗けないだろ?30階じゃ見えないだろうし。」
「ヘリコプターとか飛行機が突っ込んで来たらどうしよう……」
変な心配をするもんだ……かわいいけど。

「どう?夢の家は?」
知織は首をかしげた。

「夜景は綺麗なんやろうけど……暎さんがいいひんと淋しいと思う。塔に幽閉されてる気分になりそう。」

俺?
予想外の返答にちょっと面食らった。

「ここで、ずっと暎さんを待ってる淋しいイメージしか思いつかへんねん……」
知織の目に涙がじわ~っと浮かんできた。

なんで?
「気に入らない?」

知織は慌てて首を横に振った。

じゃ、どうして?

「ごめん。ワガママ言うた。暎さんが昼夜逆転生活で、ツアーいっぱいあって、スタジオに入り浸るヒトってわかってるのに、今更なこと言うた。」
グシッと知織が涙を拭いた。

……そっか。
確かに、出産の時期にもツアーの予定が入ってるし……心細いよな。
一緒に外に出ることもできない。

知織にしてみれば、ココでしか俺と過ごせないのに、俺は夜はスタジオに入るから……夜景の時には1人なのか。

一瞬驚いたけど、やっと知織の気持ちがちょっとわかった。
受験勉強中はそれでもよかったんだろうけど、これから毎夜1人でココにいると思うと、淋しいよな。

「知織が寝付くまで、は無理だけど夕食を喰ってから出るようにするよ。」
一緒に峠くんの食事を楽しもう。

「朝は、知織が起きるまでに帰宅する。」
来年、知織が大学に復学しても、ちゃんと見送れるように。

「ツアーはごめん。しょうがないけど……知織が来れそうならついてきていいんだよ?」
知織はキョトンとしてから、ちょっと笑った。

「確かに。ツアーも海外旅行も、大学生になったら一緒に行こうって言うてくれてたねえ。忘れてたわ。」

……俺も忘れてた……まあ、妊婦さんだし実際にあちこち連れ回すのはきついかもしれない。
でも、できることなら叶えてあげたい。
俺と一緒にいたいと言うなら、なるべく一緒にいよう。

「愛してるよ。」

手を伸ばせば知織がそこにいる。
いつも俺のそばで笑っててほしい。

そのために、俺、がんばるから、さ。

幸せになろう。


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「子供が生まれたら、亭主そっちのけになるのが普通じゃねーの?」
息子に嫉妬するとは思わなかった……とぼやいたら、先輩パパの茂木は達観していた。


半年後、無事に出産した知織は子育てが忙しそうだ。

結婚した当時、俺と離れることを淋しがってたはずなのに、今は俺より息子の光人(りひと)の顔を見て、とろけそうな顔になる。