おいてけぼりティーンネイジャー

「その中で、夢の家が出てくるの?」
「うん!アンが新婚生活を送るのが夢の家で、次に引っ越すのがイングルサイド。炉辺荘って邦訳されてるねん。」
「……そっか。じゃあ、とりあえず知織が大学を卒業するまでは、夢の家の住人だな。」

俺の言葉に、知織はニコーッと笑って、ピトッと俺の腕にくっついてきた。
「ありがとう。1つ1つクリアーしてくれて。暎さんがどんどん進めてくれはるから、私も……将来が楽しみって思えるようになってるねん。夢みたいに、幸せ。」

俺の心が、きゅーっと甘く疼いた。

「……喰うために、働くとか、もう言わない?」

思わず口から出た俺の不満に、知織はキョトンとした。

「俺から離れることを想定して、自立しようとしない?」

知織は、パチパチとまばたきを繰り返した。

「知織はさ、いつか俺に捨てられるって思い込んでるだろ?だから、俺も知織に見切りをつけられるかも、って不安になる。」

俺の言葉に知織は困った顔をした。

「知織も子供も、俺は絶対に手放さないから。」

知織の目に涙が浮かんだ。

「……ごめん。暎さん、いつも前向きやから、そんな風に不安にさせてるとは思わんかった。自分1人がしっかりしてたらいい、って思ってた。」

うん。
わかる。
わかるけど、知織がそう思う度に、俺は知織においてけぼりにされるんだ。

知織の涙を指ではらってから、まだ涙で潤む瞳を覗き込んだ。

「俺、いくつになってもオトナになれてないって言うか、頼りないかもしれないけどさ、知織と子供を養う甲斐性はあるから。一生、俺に甘えてほしい。俺のそばで笑っててほしい。俺を置いていかないで。」

知織は赤くなって、うつむいた。
「……これって、プロポーズですか?」

そういうつもりもなかったけど、確かにタイミングも意味もそうなるか。
いくつになっても調子いいことを自覚しつつ、俺はうなずいた。

ま、結果オーライ、ってことで。






今年の春は足早にやってきた。
2月12日の正午、インターネットで足切りが発表され、知織はあっさりと1次を突破した。
ちょうどお昼ご飯を作ってくれてた峠くんが、お祝いに鯛飯を炊いてくれた。
……1次で鯛なら2次なら何が食べられるんだろう。
知織も俺も、期待が膨らんだ。



それから2週間後の2月25日と26日。
知織は東大文Ⅲの二次試験を受けた。

峠くんは、妊婦で受験生の知織を気遣って、朝からやって来て知織に朝食と弁当を持たせてくれた。

……本当にイイ子に来てもらえたなあ。