おいてけぼりティーンネイジャー

「一条さん、CMの話が来てますけど、もちろん受けますよね?」

マネージャーがちょっと興奮気味にそう聞いてきた。
「うん?何のCM?」

IDEA(イデア)結成15年めの夏のイベントが終わってすぐのこと。
秋のツアーに向けての打ち合わせの最中だった。

「……てか、今まで俺たち、仕事断ったことないじゃん。」
昨年、長男が誕生して、公私共に順風満帆な茂木がそう言った。

「どこのCM?新しい曲作んの?」
昨年こっそり結婚して、先月離婚したばかりの尾崎が俺に聞いた。

「さあ。今、はじめて聞いたけど。どんなの?」
「それが、曲だけじゃなくて、一条さんに出演依頼が来てるんですよ!」
マネージャーが、汗を飛ばす勢いで拳をぶんぶん振りながら言った。

「へえ……。出るのは俺だけなんだ。どこ?」
今までにも、何度か出演したCMはあったので、俺達は割とクールに聞いていた。
が、それが海外ブランドの化粧品のCMと聞いて、さすがにびっくりした。

「一条、女だと思われてんじゃないの?」
茂木が腹をかかえて笑った。

「……男性用化粧品だろ?普通に。」
俺はそう主張したけれど、尾崎に言われた。
「そんなに普通なのが来るわけないだろ!その格好で!」

……確かに、34歳になっても俺は相変わらず髪を金色に染めて長くのばしていた。

「そっか。そうだよな。……じゃ、髪、切らなくていいなら何でもいいよ?」
俺がそう言うと、茂木が慌てて言った。
「いや、ヒゲ関係と脱ぐのもNGにしよう。」

……もちろん俺は男だから普通にヒゲものびる……あまり濃くないけど。
しかし、どうもヒゲは俺のイメージじゃないらしい。

歳を重ねるにつれて、キワモノから童話の王子様のように扱いが変わってきたようだ。

男にも女にもモテるステレオタイプのイケメン尾崎なら普通の男性化粧品のCMもできそうだけど、よりによって、俺か。
どんなCMに使われるんだ?




「そりゃ、ユニセックスちゃいますか?」
翌日の昼過ぎに起きたら、知織がライティングビューローで受験勉強をしていた。

……知織は高校3年生になって本格的に受験勉強に打ち込んでいる。
京都の中学校で仲良しだった由未ちゃんが4月からこっちに転校して来て、アリバイに協力してくれるおかげで、知織は俺の部屋に泊まることもできるようになった。
でも毎日うちに来るのは受験が終わるまで控えるらしい。

表立ってそれに反対はできないので、俺は知織が少しでもうちで勉強できる環境を整えてみた。

フランスからアンティークのライティングビューローを輸入したり、諸橋の大漢和辞典や平凡社の国語辞典を揃えたり、電子辞書を買ってみたり。

何も言わなくても気持ちは伝わったらしく、知織は夏休みに入ると、ほぼ毎日うちに来て勉強していた。