おいてけぼりティーンネイジャー

ホテルに帰ってすぐ、知織に電話した。
「もしもーし。俺。」
『うん。ホテル?京都、寒い?』
「寒いよ。でも今はポカポカ。知織ん家で、お鍋ご馳走になってきたよ。」
『え!?』
電話の向こうで、知織が心底驚いてるのが想像できた。

『鍋……うちで?嘘~!』
「ほんとほんと。水炊きは素材の味が大事だから無農薬野菜使ってるって言ってたよ。実際、白菜も甘みが強くて、うまかった。」
『……暎さん……すごい……。』
知織の感嘆は俺を有頂天にさせる。

「もっと褒めて。今度、お父さんをお酒に誘うんだ。酒が入ればもっと仲良くなれるよ。」

……あれ?
喜んでくれるかと思ったのに、知織、無言になっちゃった。

「知織?」
耳をすますと、かすかに知織が泣いているのがわかった。

「どうした?泣くことないよ。喜んでよ。ちゃんと近づいてるだろ?」
『うん……うん……うん……』
涙声でうなずく知織。

あ~、離れてることがもどかしい。
抱きしめたい!

『……暎さん……大好き。』
うわぁ……参った。
ドキドキする。
体が反応してしまう。
たったそれだけの言葉で、俺はどこまでも舞い上がれそうな気がした。

「おれも、愛してるよ。……早く逢いたい。」

……当面の問題は、無駄に元気になってしまったコイツだな。
電話を切ってから、俺は思春期の少年のように、知織を想って慰めた。
まだまだ若いね、俺。





翌朝、まだ暗い時間に無理矢理モーニングコールで起こされた。
眠いし、寒い!
ホテルのロビーで、尾崎や茂木と合流し、タクシーで寺へと向かった。
やっと空が白んで来た頃、お寺に到着。
……観光客がいないと、怖いぐらい冴え冴えとしてるなあ。

「ちょっと早いから、滝、見に行きましょうか。」
「凍ってんじゃないの?」
マネージャーに引っ張られて、山のほうへ。
尾崎だけが妙に元気だ……さすが、好奇心旺盛な奴。

「あれ?……ちょろちょろ~だよ。」
水量の少なさにがっかりしたっぽい尾崎に、茂木が
「滝じゃねーじゃん。」
と笑った。

「……打たれてみますか?」
静かなのに迫力のある低い声が響いた。
まだうす暗かったせいか、いつの間に俺たちに近づいたのからからなかったけれど、ふり返ると若い僧が立っていた。

思わず俺は首をすくめたけど、尾崎は手を挙げた。
「はい!お願いします!」
……すげ~。

「では、明朝、準備いたしましょう。今日はご見学ください。」
艶然と微笑みながらそう言って、僧侶は白い衣1枚で行場(ぎょうば)に入って行った。
はく息も真っ白で、ベンチコートを着ていてさえ寒くてしょうがないのに、冷たい水の中に素足で入っていくなんて。

見てる俺が身震いしてるのに、僧侶は顔色一つ変えていなかった。