おいてけぼりティーンネイジャー

「知織は学究肌だね。大村のお父さん譲りなのかな。大学では歴史を専攻するの?」
『どうかな。歴史じゃ食べるの大変みたいやしなぁ。趣味を仕事にしたくない気もするし。』

食べるの、か。
相変わらず、知織の将来設計の中で俺はどういう存在なのか不安だよ。
俺が喰わせてやるのに。
何で自立しようとしてるんだよ。

ちょっと不機嫌になった俺は、ぶっきらぼうに言った。
「そういや、暎慶(えいけい)さんだっけ?今度、逢ってくるよ。」

『はあっ!?』
知織が激しく反応した。
なんか、ますますおもしろくないな。

「前に言ってた企画、決まったんだ。前乗りするから、知織の実家にも寄ってくるね。」
『……また行くの?うちにも。大丈夫?』
心配そうに知織が聞いてきた。

「なんで?行くたびに仲良くなってるよ。むしろ楽しみ。」
俺がそう言うと、知織が電話の向こうで少し笑ったようだ。
『……暎さん、すごいね。尊敬するわ。』

尊敬?
なんか照れるな。
知織の一言で機嫌が直ってる自分に後から気づいて苦笑した。





「一条さん、これ、お借りしてた本、ありがとうございました。」
女性スタッフが返しに来た本は、グールモンの詩集。
……貸したっけ?
そういや、読み直すつもりですっかり忘れてたな。

「そこ置いといて。」
「はーい。失礼しましたー。」
「あ!待って!……四つ葉のクローバー、あった?」
女性スタッフはキョトンとしてたけど、すぐに理解したらしく、うなずいた。

「ありました。古い本って感じですねえ。時代を感じました。そのままにしてあります。」
「そ。ありがと。……て、別に俺が作ったわけじゃないからね。」
一応そう断ると、女性スタッフははじけるように笑った。

「わかってますよ!一条さんにあんな丁寧なことできるわけないじゃないですか!そもそも、四つ葉のクローバーを探すはずもないし。」
……俺、どれだけガサツな人間と思われてるんだろう。
ま、いいけど。

女性スタッフが部屋から出てから、入れ替わりにマネージャーが入ってきた。
「懐かしいですね、その本。」
マネージャーがそう言ったのを聞いて、驚いた。

「知ってんの?」
「ええ。僕がIDEAのマネージャーになった日に届いた本なので、よく覚えてます。あの頃はファンレターもプレゼントも少なかったですしね。」
……てことは、13年ぐらい前?

俺は件(くだん)の本を手に取った。
しおりの挟まれたページは、「あらしの薔薇」。