おいてけぼりティーンネイジャー

翌日、知織からメールが来た。
まだ微熱はあるけれど、だいぶ楽になったらしい。

見舞いに行くと言ったら、風呂に入ってないから嫌だと言われた。
……かわいいので、俺も我慢することにした。
我ながら振り回されてるなあ。




2月に入るとIDEAが本格的に始動した。
春のツアー日程が発表され、着々と準備が整えられていく。
レギュラーのラジオ番組も増えることが決まった。
さあ、忙しくなるぞー。
合間にアルバムのレコーディングもあるし。
毎日、知織と過ごす2時間ほどに、俺は癒やされ支えられた。

「一条さん。お寺、決まりました。観光シーズンに入る前がいいそうですので2月20日から1泊2日で行きます。」
スタジオで曲を書いてる俺に、マネージャーが企画担当のプロデューサーと一緒にそう報告してきた。

「了解。どこに決まったの?」
「京都です。」
……もしかして……や~、やっぱりご縁があるんだなあ。
俺達IDEAがお世話になるのは、知織の親戚の寺に決まったようだ。

「どんなことすんの?座禅?」
「え~、滝に打たれて、座禅して、写経して、読経。精進料理の指導もありますけど、作りますか?」

滝?
2月に滝?
「冗談でしょ?滝って何?死んじゃうよ。風邪引くよ。」

プロデューサーはニンマリと笑った。
「そう思うだろ?でも、これが意外とあったかいんだってよ。夏のほうが骨身に沁みる冷たさで、冬はむしろ温かく感じるらしいぞ。」
へえ~、そういうもんなんだ。

「ただし、打たれる前後が寒いそうだ。」
……そりゃそうだよな……2月だもん。

「それってさ~、寺のヒトもしてんの?」
「そりゃそうですよ。修行ですもん。……って、一条さん、珍しく食いつきますね。興味津々?」
マネージャーに指摘されて、ちょっとひるんだ。

「そういや、以前、出家したいって言ってましたっけ。あれ、本気だったんですか?」
……本人も忘れてたよ、それ。
あの頃と違って、知織のおかげですごーく充実した日々を送ってるから、これっぽっちも出家したいって思わなくなってた。

あ!でも!
「ねえ、髪切らなくていいんだよね?確認しといて。」


マネージャー達が部屋から出て行った後、俺は早速知織に電話した。
「もしもし?まだ起きてた?」
『うん。読書してた。』
「何、読んでるの?」
『幕末の歴史書。こないだ幕末の小説読んだから、記憶が新しいうちに事実確認しとこう思て。』
「へえ。おもしろい?」
『すっごく!あら探ししてるんじゃなくて、小説家が話を組み立てるために史実をどう改変してるかわかるんが楽しくて。今度は、史料の翻刻本を借りてこようかな。』

……相変わらず、発展して追究していく読書だなあ。