おいてけぼりティーンネイジャー

「……今日、京都に帰るんだっけ?」
私は黙ってうなずいた。
「じゃ、ほっといたら、知織ちゃん、裕子に直接聞いちゃいそうね。」

それには少し首をかしげた。
……母には聞きづらい気がした。

「裕子に何も言わないなら、教えてあげる。」
平原先生は、私の顔をじっと見た。
私は黙ってうなずいた。

「裕子は、一条に裏切られたのよ。」
吐き捨てるように、平原先生はそう言った。

「どういう意味ですか?」
心臓がドキドキしてきた。

「事実だけを言うから、あとは知織ちゃんが判断なさい。」
そう前置きしてから、平原先生は一気に言った。

「中学の頃、裕子は私を応援しに大会によく来てくれてたの。気づいたら、裕子は一条に惚れてたわ。でも自分のほうが1つ年上だからアプローチすることもなく、ただスダンドから見てた。そのうち、一条に好きなヒトが出来たり、アキレス腱切ったりして、裕子との接点はなくなった。と、思ってたんだけどね、2人の高校が近かったのと、一条がバンド活動を始めて目立ってたせいで、裕子は一条を見つけてしまったの。」

好きになったのは、母からなんだ。

「私はその頃の一条を知らないし、裕子も一条のことを悪く言わない。だから詳しいことはわからないけど、一条が悪い仲間と悪さをしてたのは確かなの。結果、裕子は、急性薬物中毒で病院に搬送された。薬が抜けるまでけっこう時間がかかって、あの頃は大変だったわ。一条も、その仲間も、見舞いにも謝りにも来なかった。」

……だから、裏切られた……か。

暎さんの言ってた「犯罪者」の意味合いもこのことなのだろう。
私の中で、いくつものピースがパズルを埋めていく。

「やっと落ち着いた頃、裕子の妊娠がわかったの。ううん、裕子はもっと早い段階で気づいてたのに、みんなに隠してたの。どうしても産みたかったの。知織ちゃんを。」

突然、自分の名前が出てきて、私は驚いた。

私?
え?
私にも関係ある話だったの?

……そうか、母は高校を中退して私を産んだんだから……他人事じゃないのに、ものすごく遠い昔の話のように聞いていた。

「父親が誰かすら裕子はわからないそうよ。」

さすがに胸に突き刺さった。

わからない……。

それって……。

「暎さんの可能性も、あるんですか?」

平原先生は、小さくうなずいた。

「……違いますよ。似てるとこないもん。私、あんなに彫りの深い綺麗な顔立ちしてへんもん。」

言葉が、心のうわっつらだけをなぞってる。