おいてけぼりティーンネイジャー

夕方、祖父母の家に帰ってから、明日のための荷造りをした。
着替えだけじゃなくて、お勉強セットも持って帰らなきゃ。
新幹線で読む本も1冊持とうかな。

祖父の書斎で本を見つくろう。
うちにはないのかな……グールモン。
ざっと見てないようだったので、腰を据えて、並んだ本の奥に並んだ本達も見ていった。
ん~……ん~……ん~……あ!

これ!
『月下の一群』!

堀口大学の訳詩集。
言葉が耽美で綺麗だから楽しめるかも。
奥から一冊引き抜いて、目次を見た。

グールモン!
あらしの薔薇!
ビンゴ♪

早速ページをめくった。
あらららら。
ない!
ものっすごく不自然に、ない。
破り取ってしまったらしい。
なんで~?
これが見たかったのに。
仕方なく書架に戻す。

……あ!
こんなとこに、ジッドが並んでる。
そういや、グールモンはジッドを批判してたっけ。

ジッド、ジョルジュ=サンド……いいなあ。
うん、このへんにしよう。
『狭き門』と『愛の妖精』を抜き出した。
至玉のフランス田園文学に心がときめく。
『狭き門』の目次を見て、あとがきを読む。
もちろん以前読んでるけど、たぶん訳者が違うので楽しみ。

わくわくして、ぱらぱらとページをめくって……私の中の時が止まった。

そこに、黄色く褪せた新聞の切り抜きが挟まっていた。
かなり古そう。
ぼんやりした精度の低い顔写真。
……それでも整った顔立ちであることは容易に見て取れた。
てか、写真の下の文字は「一条暎さん(15)」。
間違いなく暎さんだ。

記事は、関東中学校陸上競技大会の短距離で優勝候補の暎さんが、隣のレーンの選手に後方から接触され転倒してアキレス腱断裂したことを伝えていた。

私は、ふるふると自分が小刻みに震えてることに気づいた。
パズルのピースがまた1つ見つかった。

てか、ほぼ完成か!?
つまり、母は暎さんを知ってた。

……こんな記事を取っておくんだもん……暎さんを応援してたのだろう。
てか、もしかして、付き合ってたりして!

あの暎さんの書架にあったグールモン、あれも母からの贈り物?

えーと……母と同じヒトを好きになってしまった?

マジで?

えええええ?


翌日は終業式だった。

私は整理のつかない頭で、体育教官室へと押しかけた。
既に他の先生も来てらしたので、平原先生を呼び出した。

「2日続けて朝から、珍しいわね。……思い詰めた顔しちゃって。」
平原先生はからかうようにそう言ってから、顔を歪めた。
「何か、あった?」

私は恐る恐る聞いた。
「母と暎さんは、付き合っていたのでしょうか?」

平原先生は、ふーっと息をついた。