おいてけぼりティーンネイジャー

その夜は、バロック編成のブランデンブルク協奏曲をかけた。
祖父の書斎から選んできた本は、プラトンの『パイドン』。
魂を解放させてイデアの世界に飛翔するんだ。
そう思ったのだけど……2番の第2楽章に入ったところで、オーボエの旋律が胸に沁みた。

やばい。
泣けてきた。

……思えば、バロックもプラトンも……もともと私の大好きなものではあるけれど、どちらも暎さんとの共通点でもあるわけで……。
何でこんなマイナーなところでシンパシー感じちゃうんだよー。
淋しいよ。

私、暎さんとこれっきりになったら……好きなものがいっぱいタブーになっちゃうのかな。
それって、淋しすぎる。

暎さん、怒ってるかなあ。
……もうすぐ丸一日無視しちゃってることになるのか……さすがに怒るよね。

今夜のコンサートに響かないといいな。
まあ、プロだから、大丈夫よね?

バックヤードで尾崎さんと茂木さんが迷惑蒙ってるかもしれないな。
すみません……と、心の中でお2人に謝った。
……まだお会いしたことないけど。

結局、『パイドン』は読まずにベッドに入った。
夕べ泣いててあまり眠れなかったからか、明日お兄さんに会えるのが楽しみだからか……今夜はスコーンと眠りに落ちることができた。


翌日の水泳大会は、かなり盛り上がっていた。  
平原先生は水着に薄いジャージを羽織ってプールサイドを走り回ってて、すごくかっこよかった。
てか、私は出ないんだから、水着に着替える必要ないんだけど。
恥ずかしいから早く着替えたいな~。

……と思ってたら、フェンスの向こうに由未ちゃんのお兄さん!
か、かっこいいっ!
数ヶ月しかたってないのに、オトナの男性になってはる!
白い麻のジャケットがまぶしい!

ひらひらと手を振られて、思わず駆け寄った。
「知織ちゃん、綺麗になってるやん。色気も充分あるある。このまま押し倒しても全然OKやわ。」
「はあああっ!?」

慌てて、くるっと背中を向けて、特に胸元を隠した。
「お兄さん、相変わらず、や~らしいですね。」

身体を捻って苦笑したら、お兄さんがフェンスの隙間から指を伸ばして、私の唇に触れた。
「今日は、『お兄さん』封印。」

きゅーん!

「じゃ、義人さん?」
名前を呼ぶだけで、ドキドキする。

「よくできました~。待ってるから着替えといで。俺はその格好でもええけど。」

にっこり微笑んだ義人さんに、私も自然と笑顔になった。