「そんな!大丈夫ですよ!
すぐ近くですもん。ひとりで帰れます」

リリーのアパルトマンは『キッチン ヘレン』から曲がり角をふたつほど曲がったところにある。

ここから歩いて五分もかからない。

「あら、女の子なんだから。
夜道にひとりなんて危ないわよ〜」

「いえいえ、全然平気ですよ!」

「何言ってる、平気なもんか。
可愛いリリーになにかあったりしたら大変だ」

「そうよ〜。
リリーみたいに可愛い女の子、余計に心配だわ」

「そんな…二人とも大げさです…
まだ少し人通りだってあるし、そんなに危なくないですよ」

リリーはくりっとした栗色の大きい瞳を瞬かせて、滑らかな白い頬を赤く染めた。

恥ずかしそうに肩を竦めて俯くと、無造作に一つに束ねられた腰まである瞳と同じ栗色の髪がはらりと少し顔にかかる。

十六歳でひとり親元を離れて、ノルディア王国の王立学園に入学したリリーは、幼い頃からの夢だった世界で活躍する通訳になるために今まさに猛勉強中。

高額の学費を払ってくれる両親のためにも、バリバリ働いて将来楽をさせてあげたかった。