人の間を縫うように進んで、壁際まで移動する。

ひとり落ち着ける場所で、リリーは遠巻きにパーティーを楽しむ出席者を眺めていた。

眩しいほどにキラキラ華やかな世界。

それはリリーの憧れた絵本の中の世界そのもののはずなのに、なぜか今は、子供の頃のようにただ心を弾ませて浮かれることなどできない。

現実を突きつけられたような、気づかされたような気さえしてくる。

リリーは手にしたまま、ほとんど口をつけていなかったグラスの中のワインに映る自分の姿を見つめた。

素敵にドレスアップしてもらった今夜のリリーは、確かにクレアやレイチェルのような、まるでどこかの令嬢のように見えるかもしれない。

でも、どんなに外見を着飾っても、中身は普通の留学生であることは変わらない。

せっかくパーティーに出席できても、クレアのように優雅に振舞うこともできず、緊張したぎこちない笑顔を絶やさないようにすることくらいしかできないでいる。

「こんな高いワインも、もう飲める機会もないかもな…」

シャンデリアの光にワインをかざして、リリーは小さく呟くと苦笑する。

そしてグラスを傾けると、ゆっくり味わうように飲み干す。

普段なら味わえない高級ワインの味は、やはりよくわからなかった。