屈託のない小さな太陽のような笑顔に、頼之さんもとろけそうな笑顔になった……たぶん私も。

「ほんま。一瞬一瞬が大切で尊いね。これが永遠なんやね。」
私が頼之さんにそう言うと、光が私にしがみついてきた。
「あーちゃん!海、好き!怖いけど、好き!」

頼之さんが光の濡れてぺったりと額にくっついた髪を整えてあげながら言った。
「怖いか。そうか。でも恐れは持ってたほうがいいな。海は楽しいけど、平気で人の命を飲み込む力も持ってるからな。怖いぐらいがちょうどいいわ。」

光は頼之さんを見上げて言った。
「あーちゃんももう怖くない?……パパがいるから。」

その声も表情も、ちょっと淋しそうに見えた。

いや、そもそも光じゃなくて……あれは……彩瀬?

まるで彩瀬が憑依したかのような、神秘的な空気をまとって光は波間に視線を移した。
私だけじゃなく頼之さんも感じたのだろう……私たちはただ立ち尽くして光を見つめた。

「波は一瞬も同じじゃないのに、海は少しも変わらないんだね。」

声は確かに愛らしい光のものなのに、その口調は……。


「パパ。あーちゃん。帰る!おなかすいたぁ。」
振り返った光は、いつもの可愛い光だ。

「ああ。帰ろう。俺も腹へったわ。」
頼之さんは目を細めて光を見つめてそう言った。

……本当に……この人は、あるがままを受け入れてくれるんだなあ、と、まだ不思議現象を咀嚼しきれない私は走り出した光の背中をただ見つめていた。

「行こうか。」
ぼーっとしてる私の肩を抱いて、頼之さんが歩き始めた。

「……うん。……彩瀬かと思った。」
言わずもがなだけど、そうつぶやいた。

頼之さんは、私の肩をポンポンと叩いた。
「ま、いいやん。どっちでも。もしあいつがたまに顔出してくれるなら、それはそれでラッキーやと思わん?もう二度と逢えへんと思っとったのにな。」
前向きだなあ、と改めて頼之さんを見た。

「あおいもその都度、変な顔しとらんと。次は笑顔で迎えてやろうな。」
そう言われて、ちょっと首をかしげた。
「……もし、光がただの多重人格やったら?」

頼之さんは、不敵に笑った。
「かまへん。俺らの子や。何人おっても平等に愛してやるわ。」

かなわないな。
頼之さんのこういうところ、本当にすごいと思う。

私は無意識にお腹をおさえた。
「次は、女の子かな。また男かな。」

頼之さんがそう言いながら私の手に自分の手を重ねた。
「……知ってたん?」

「そら気づくわ。光の時かて俺のほうが先に気づいたのに。」
生理が2週間遅れてる……まだ検査してないけど、そういうことだろうな。

「産んでも大丈夫かな?光に淋しい想いさせへんか、心配。」
そう弱音を吐くと、頼之さんが私の頭をくしゃっと撫でてから、大きな声で叫んだ。

「光ーっ!弟と妹、どっちが欲しいーっ!?」

すると光は飛び上がるように足を止めて、くるっと方向転換して再びこっちに駆け寄ってきた。
「弟ーっ!」
光はそう叫んで、両手を挙げて頼之さんに抱っこをせがんだ。

頼之さんはひょいっと肩の上に光をかつぎ上げた。
「そっか。弟か。楽しみやな~。」

光は頼之さんの肩の上でご機嫌さんになり私に手を伸ばした。

「あーちゃんも!」

ちっちゃな光の手を握ると、私の胸に勇気と希望が広がった。

「よし!みんなで幸せになろう!」