「頼之さん、優しくて親切って、彩瀬が褒めてたけど……」

……そういや硬派だとも言ってたな……女性関係は奥手だったってことか。

「ああ……」
そう言ってちょっと頼之さんは赤くなった。

「あいつは、特別。てか、あいつの面倒見てくれって担任に頼まれよってんけどな、最初は。」

やっぱりそうやったんか~。

「でも気がついたら、あいつの言動に翻弄されとったわ。」

……は?
「……何か、その言い方やと、頼之さん、彩瀬に惚れてたみたいに聞こえるんですけど……」

恐る恐る聞いてみると、頼之さんは何とも言えない照れくさそうな顔をした。

「せやし前に言うたやん?……あいつは天性の魔性。」

えええええ!?
思わず私は頼之さんからちょっと離れて身をよじり、車の窓に背中を付けた。

「ゲイ!いや、バイ!嫌~~~!!!」
「だぼ!俺には理性があるわ!すぐ切り替えたわ。あいつは唯一無二の親友。それ以上でも以下でもないわっ!」

そう言って頼之さんは顔をしかめたけれど、しばらくして、ふっと笑った。

「それに、あおいに出逢って、これが本物の恋愛か、って理解したしな。」

まだ窓ガラスに張り付いてる私の腕を、頼之さんは赤信号で車が停まるのを待って、自分のほうに引き寄せた。

「こいつが欲しい、って強烈に思った。」

……ずるい。
そんな風に言われたら、何も言えなくなってしまう。

私は、頼之さんの肩に頭を預けて、ほうっとため息をついた。
「今は?モノにして、そろそろ飽きてきた?」

口惜しいので心にもないことを言うと、頼之さんは苦笑して後部座席の光が寝ているのを確認してから、私の頬に手を宛てて慌ただしく深く激しく口づけた。

……やっぱり、ずるい……と、思う。

信号が変わって、車を再び走らせると、頼之さんは静かに、でもハッキリと言った。
「次元が違うわ。飽きるわけないし、飽きる意味がわからんわ。俺は、あおいと光を守る、一緒に生きていくって決めとーねん。何年一緒に暮らしても、一瞬一瞬が大切で尊いと思ってる。全てのひとときの積み重ねが永遠やから、どんなちっちゃいこともおろそかにはせん。……あおいがしょーもない憎まれ口たたいても、全部受け止めて、幸せにしてやる。安心して俺に甘えたらいいから。」

胸が一杯になった。
言葉が出ない。
私はただうつむいて……かすかにうなずいた。


須磨の別荘に着いたのは夕暮れ時。
もう今日は泳げないけれど、光が海を見たがったので、3人で浜辺にやってきた。

「光、ほら!」
頼之さんが光にむかって海水を両手で水鉄砲のように飛ばした。

光が真似をしようとして、波間に尻餅をついた。
「光!」

私も頼之さんも、大慌てで光のそばに駆け寄る。
ちょうどその時、少し大きな波がやってきて、結果的に3人とも腰ぐらいまで濡れてしまった。

あ~あ~。
着替え、別荘に置いてきちゃった。

……このまま車に乗ったらシートが塩ふきそう。

途方に暮れていると、光が楽しそうにきゃらきゃらと笑いだした。