夜、彩瀬の部屋のシングルベッドで、手をつないで眠る。
さらに手を伸ばそうとすると、彩瀬はやんわりと私を窘めた。

でも、夜中に無意識に彩瀬に抱きしめられていることもあった。
そんな時は、うれしくて体の中から震えがこみあげた。

「あーちゃん……あー。それ以上……ないで……。あー。」
彩瀬の寝言はさらに私の胸を熱くした。

私を呼び、私に話しかけ、私を慰め、私に懇願していた。
これ以上の証拠があるだろうか。

私は彩瀬に愛されている。
間違いない。

でも彩瀬は私を抱くどころか、キスすらしようとしなかった。
ただ、大事そうに抱きしめてくれるだけだった。

「彩瀬。愛してる。抱いて。」
いつからか、私は毎晩のように眠っている彩瀬の耳元で囁くようになった。
睡眠学習のように。

ある夜、彩瀬の寝言のあと、こめかみに唇を押し付けられたような気がした。
……あれ?
もしかしたら、寝言じゃない?

私は寝たふりを続けながらも、心臓がドキドキと早くなるのを感じて頬が熱くなった。

「あー。僕を許して。」

「それ以上、綺麗にならないで……あー。」

私の中に、彩瀬の想いがしんしんと降り積もる。

昼間、どれだけ淋しい想いをしても、私たちは夜、気持ちを吐露することで満たし合った。
たぶん、それは、暗黙の了解。

ん?
……彩瀬にそんな器用な芸当ができたのか?……謎だ。



しばらくすると、同じクラスの女生徒が、やたら私を仲間に入れようとし始めた。
彩瀬目当てだろうと思ってたけど、一概にそうとも言えないらしい。

私を仲間にいれることで、宿題や予習を丸写しできたり、男子生徒とお近づきになれるという計算もあったようだ。
……しょうもない。

それでも、少なくともイジメ対策にはなっていた、らしい。
心の交流は全くなかったけれど、とりあえずは一緒にいた。


秋、進路指導の先生に呼ばれた。
まだ1年なのに何故?
……またどこかの研究機関か私立の進学校からのお誘いか?

お昼休みに進路指導室に行くと、変な相談を持ちかけられた。
過日行われた彩瀬の三者面談で、彩瀬の学力ではレベルの低い、かなり荒れた高校にしか行けないと指導したところ、母は私のバーターでイイ学校へ入れるよう取り計らってほしいと懇願したらしい。

……恥ずかしい……我が母ながら、彩瀬に対する盲目的な愛情は醜悪なほどだ。
もちろん私は何も聞いてなかった。

「逆のパターンはよくあることなんだけどな。」
と、進路指導の先生は苦笑していた。

兄や姉が優秀なら、弟や妹が入試で合格しやすい……確かにそれはわかる。
でも、今回は何の保証もない信用買いをしろ、と言ってるようなものだ。