頼之さんのお母さまのお家の別荘だった、現在頼之さんのお父さまの会社の保養所となっている邸宅は、須磨の海がよく見える高台の山荘だ。
スイスかドイツの中世の建物のように黒く塗った木を組んで外装に利用した可愛い建物は、乙女ちっく!

「素敵……」
お家は純日本家屋だからてっきり別荘もそうかと思ったら、予想外の建物に驚いた。

「ヴァルトブルク城を参考にしたらしい。」
ん?

「タンホイザーの?あれって、レンガ造りやったような……」
あまり詳しくないけれど、確か世界遺産だからどこかで画像を見たような気がする。

「基礎はレンガで、レンガ部分メインの写真が多く使われるみたいやな。でも、こういう木組みの棟もあって……ひいばあさんが気に入ったらしい。」
鍵をいくつも使って中に入ると、なるほど、玄関に入ってすぐの所にヴァルトブルク城の全景写真が飾ってあった。

てか、内装も、すご~い!
年を経て落ち着いているけど、できた時はピカピカキラキラだったんじゃないか?

とりあえず、お湯を沸かして紅茶を入れた。
「築何年て?」
「大正2年、武庫離宮造営の前の年やからほぼ100年やな。震災でガラスや陶磁器はほぼ全滅したらしいけど。」
……なるほど……確かにスプーンやフォークは古い銀食器なのに、ティーカップは新しいわ。

リフォームも入れて住みやすくなってるから文化財指定にはならないだろうけど、まあ、そういう建物なわけね。

「何か、ここに住みたいぐらい素敵。不便?」
「道もこんでるしなあ。土日に来るぐらいはいいやろけど。ま、光がもうちょっと大きくなったら遊び場はいっぱいあるな。」
「ふふ。光源氏は須磨に流されて、明石の君と出会うもんね!」
「明石の君ねえ……」

頼之さんがティーカップを置いて、光を抱っこした。
「あおいは葵の上っぽくないけど、光は光源氏になりそうやなあ。あんまり女、泣かすなよ。」
彩瀬ジュニアだもん……ほっといても光源氏だと思う。

「頼之さんのようになってほしいのにねえ……」
……心からの言葉だった。

頼之さんは、私を見て、困ったような顔になった。
「……悪ぃ。着いて早々やけど……夜まで待てんわ。」

ドキーンと心臓が跳ね上がる。

「あの、……桜は?」
……シャワーは?とは言えなかった。

「行こうか。特等席に案内するわ。」
何か頼之さんの牡スイッチが入ってしまってる気がする。

頼之さんは光を大事そうにベビーバスケットに寝かせて左手に持ち、右手を私の背中に回した。
ひゃ~~~。

ドキドキドキドキ。