佐々木、いつの間にか、頼之さんだけじゃなくて私のことも盲目的に崇拝してやがる。
めんどくさいなあ。

「……なんぼ作戦立てたところで、実行するのは選手や。まず、あんた以外の部員の実力上げてから言いよし。」
そう切り捨てたつもりが、佐々木はあきらめなかった。

「ほな、練習メニューも考えてくれるんか!」

いやいやいや!
都合のいい奴!

「できひんって、言いよーやん。私、忙しいって、わかっとーやろ?」
「おう、わかっとー。せやし、マネージャーせえとは言わんし。吉川は参謀。それでもあかん?」
どう言えばこいつはあきらめるんだ?

私は少し考えてみたけど、佐々木の猿の頭は読めないことを思い出して、匙を投げた。
「わかった。ほな、佐々木がキャプテンなったら、参謀したげるわ。インターハイ終わったら。それでいいやろ~?」

とりあえずの時間稼ぎでしかないけど、頼之さんから断ってもらえばいいかな、みたいな。
佐々木は、うーんと唸って、渋々妥協したようだ。
「しゃーないな。ほな、せめて試合だけは見に来とってな。予習。いいやろ?」

「いいけど……休みの日ぃは、子供連れてってもいい?」
嫌がらせと言うよりは、佐々木への牽制のつもりでそう言った。

でも、目の前の佐々木じゃなく、教室に残っていた他の生徒に動揺を与えてしまったようだ。
一瞬シーンとして、誰かが椅子から滑り落ちた音が響いた。

あれは……えーと、竹原由未さんだっけ。
既にクラス全員の名前と顔は一致してるから間違いないと思うけど、彼女は見覚えがあるんだよなー。
同じ中学の印象もないし、どこで見たっけ。

竹原さんを見てると、恥ずかしそうだった彼女の様子が変わった。
さっきの佐々木から感じたのと同じ。
私に見とれてる?

同性にこんなに素直な賞賛の目を向けられることはなかったので、私はちょっとくすぐったく感じた。
「大丈夫?竹原さん。腰、傷めとらん?」

私がそう聞くと、佐々木も振り返って竹原さんを見た。
「こけたんか?」

竹原さんがぶわっと真っ赤になった。
目も涙目だ。

かわいい……あ!思い出した!
去年の夏、インターハイにお兄さんと来てた「由未」ちゃん!

あれ?でも、あのお兄さん京都の人っぽかった気がする。
……佐々木を追いかけて京都から来てるとか……まさか、ね?


しかし、どうやら、そのまさかだったようだ。
見るからに佐々木に気があるのに、このクソ猿は気付きもしないので、かなり苛ついた。
それで、つい、おせっかい焼いてしまった。
「決めた。由未ちゃんを参謀助手にする。いいやろ?由未ちゃん、一緒に来(こ)ーへん?」
彼女は、ぶんぶんと首を縦に振り続けた。

帰宅すると、今日はもう頼之さんが家にいて、光とじゃれ合っていた。
「ただいま。早かったねえ。」
「休講。おかげで光に『パパ』って言うてもらえた~。」

……いや、まだ意味わかってないし……ただの反復喃語だろうに。