春が来た。

光はみんなの愛情を独り占めして、すくすくと大きくなっている。
よく動きよく笑う、愛嬌のある子だ。

……真面目に、護身術を習わせないと心配になるぐらい、かわいい。

両親は相変わらず、目の中に入れても痛くないほど溺愛している。

同じように光にメロメロの頼之さんは、無事に超難関国立大学に合格した。
京都まで通うのはすごく大変だろうに、光と私と過ごしたいがためだけに、家から通学している。

「いや、他人事ちゃうし。3年後のあおいも、やろ。」
頼之さんの言う通りなのだが、何かもう、めんどくさくて。

「合格したら責任果たしたことにしてくれへんかな?進学する目的ないもん。」
「合格率上げて進学率下げるんか?却下。でもあおいも京都に通うなら、いっそ親子3人で京都に住むか。なあ、光。」

……京都で3人で住む?
何となくやる気が出てきたかも。

私はと言うと、約束通り高校一年生からやり直しとなった。
さすがに入学式には出なかった。

翌日こっそりとクラスに入り込み、ひっそりと溶け込むつもりだった。
が!

朝からめんどくさい奴の襲撃を受けた。
サッカー部の佐々木が正門で待ち構えていたのだ。

「吉川ー!なあ!頼みがあるねん!」
「却下。忙しい。」
私はケンモホロロに断って、職員室へと急いだ。

翌日も、朝から待ち伏せられた。
「俺、吉川が戻ってきよーの待っとってん!なあ!頼むって!」
「知らん!成績のよさそうなマネージャーにやらせたら?」
どうせ頼之さんの時のように対戦相手の調査とかでしょ?
そんな暇ないない。 

その日は部活の紹介と勧誘の日だったので、佐々木は焦っていたらしい。
何と、放課後に教室にまで押し掛けてきた。
「ラッキー!まだ残ってくれてた!」

「いや、あんたのためちゃうし。てか、もう帰るし。」
たまたま掃除当番だっただけのこと。

「待って待って。すぐ終わるし。ちょー、話聞いてーや。」
佐々木は勝手に隣に座って、熱く語り出した。
去年、いかに頼之さんが素晴らしかったか。
自分が、いかに頼之さんを崇拝してるか。
これから、頼之さん抜きで自分たちがいかにやっていくべきか。

「なんや、結局、私じゃなくて頼之さんが必要なんやん。ほな、連絡してコーチでも頼みよったら?」
佐々木は、泣きそうな顔になった。

「そんなん、今のコーチに失礼でできよーわけないやん。」
あー、いたね。
頭の中まで筋肉みたいなのが。

「小門先輩、吉川のおかげやってずっとゆーてやった。インターハイ予選、吉川が考えてくれた作戦通りに戦っただけやって。」

私は、つい舌打ちしてしまった。