その夜、光におっぱいを飲ませながら、しみじみと自分の精神的な幼さともろさを考えた。

これもやっぱりトラウマなのだろう。
私がこの歳までこうして育ったということは、母はちゃんと私を育ててくれたはず。

なのに慈しまれた記憶より、たぶん2度か3度の精神的に追い詰められての突発的な殺意を未だに受け入れられてないのだろう。

母に対する不信感。
その分、彩瀬にどっぷり依存したんだろう。

頼之さんに、悪いことしちゃったな。
……頼之さんは彩瀬じゃないのに……彩瀬と同じように、私の全てを知って許して認めてくれることを求め過ぎているんだ、私。
居心地がよすぎて、全てを委ねられそうで。

てゆーか!
彩瀬以外のヒトに心を開かなさすぎ?私。

不意に、窓が小さな音をたてた。
振り返ると、カーテンに人の影が映っていた。

泥棒、じゃない。
私は慌てて胸を隠して、カーテンを開けた。

頼之さんが窓に張り付いていた。
「ストーカー?」
ちょっと笑いながら窓を開けた。

「いや、ロミオ。ここ、けっこう登りやすいな。防犯大丈夫か?」
「二階やしね~。私、落ちても怪我もせんかったぐらいやし危ないかもね。……彩瀬は骨折したけど。」
「マジか。普通、二階でも落ちることってないやろ。2人ともどれだけ、やんちゃやねん。」

そう言いながら部屋に入った頼之さんは、私から光を取り上げて片手に抱くと、もう片方の手で私を引き寄せて抱きしめた。

急にどうした!?

「ごめんな。……問題集解いててもあおいの絶望したような顔が消えんわ。せっかく言いたくないようなつらいこと打ち明けてくれたのに、あれはないよな。あおいは、しょーもない冗談も嘘も言わんのにな……挑発はバシバシするけど。」

最後の一言は余計じゃないかい?
「メールでも電話でも済むのに。受験生の自覚ないよねえ、頼之さん。」
減らず口をたたきながらも、頼之さんの腕に抱かれてるのは心地よかった。

「あおいほどじゃないけど、俺も頭はいいから心配すんな。」
「心配する。頼之さんが浪人したら……結婚どころか恋愛もできひんやん。」

頼之さんの手に力がこもった。
「……そっか。あおいは恋愛から始めたかったんか……せやな、まだ16歳やもんな。」

「うん。彩瀬とも恋愛したわけじゃなかったから。」
あ、余計なこと言っちゃった。

頼之さんは、首を捻って私の顔を覗き込んだ。
「ほな、吉川が薬でラリってて無理やりヤッたってマジか!」

……彩瀬……そんなことまで頼之さんに言うてたんか……信じられへん……。
私は真っ赤になってたと思う……耳まで熱かったから。

「いいの!好きやったから!うれしかったから!しかも光を授かったんやから!」
私はそう言いながら、頼之さんから光を奪って抱きしめた。

頼之さんは、何とも言えない顔になったけれど、両手を広げて私と光を包み込んだ。
「……なあ。俺らに足りひんのは、時間よりも情報の共有やと思わんか?もっとあおいの話聞かせてほしい。びっくりするようなことばっかりやけど、全部信じるから。ほんまに、信じてるから。」

胸に抱えてた重たくて冷たい石が霧散した。

私は光の安らかな寝顔に口づけてから、頼之さんを見上げた。

「いいよ。受験が終わったら。……待ってる。」