頼之さんが病院とうちの両親に電話を入れてる間に、お母さまが入院セットを整える。
数分後には頼之さんの車に運ばれ、病院へと直行した。

制服の頼之さんに
「まだまだ時間がかかると思うから夕方までいなくても大丈夫ですよ?」
と看護師さんが言ったのを聞いて、それだけで卒倒しそうな気持ちになった。

お母さまの勧めで無痛分娩をお願いしていて、背中から麻酔を入れていても、やっぱり鈍痛と吐き気のような気持ち悪さは続いていて……。

つい涙目で頼之さんに目で訴えてしまった。
  イカナイデ
  ソバニイテ
  オネガイ
頼之さんは、しっかりと私の気持ちを理解してくれた。
「いえ、ついてます。」

看護師さんにそう断ると、私の腰をさすってくれた。
ホッとして涙がこぼれた。

夕方になって、看護師さんと助産婦さん、医師がバタバタし始めた。
思ったより早く産まれそう……と、分娩室に運ばれた。

間断なく痛みが襲い、助産婦さんの気合いの入ったかけ声でいきみ続けて……
身体の中から重みと温かみが落ちるような不思議な感覚とともに、彩瀬ジュニア(正確には彩瀬三世)がこの世に誕生した。
11月15日19時25分。
赤ちゃんなのに、赤いお猿さんじゃなくて、妙につるりと綺麗な男の子だった。

「世になく清らなる玉の男御子さへ生まれ給ひぬ。珍らかなる児の御容貌なり。」

彩瀬ジュニアに対面して、最初に浮かんだのはこれだった。
すごいな……さすが……綺麗だわ。
まだ彩瀬に似てるとか私に似てるとかまではわからないけど、ものすごく整った子だった。

しばらくして、恐る恐る両親と頼之さんとお母さまが入室してきた。
「彩瀬……」
赤ちゃんを見るなり、両親はそう言って泣きじゃくった。

……彩瀬、ね……私は~?
ただでさえぐったりしているのに、さらに脱力感に襲われる。

「おつかれさん。」
頼之さんが私の額から頭を撫でてくれた。

「……ありがとう。」
私の両目から涙があふれて流れる。

「玉の男御子、やな。」
頼之さんの言葉に、私は目を見開いた。
「一緒!私も思い出しとってん!せやんなあ?光源氏やんなあ!」

頼之さんのお母さまがニコニコ笑って近づいてきた。
「あら、もう名前決めたの?光(ひかる)くん?」

私と頼之さんは顔を見合わせて、笑い合った。

「この君をば、私物に思はしかしづき給ふこと限りなし。……だな。」
そう言いながら頼之さんは彩瀬ジュニアに近づいて、そっと腕に抱いた。

「光。あおいと俺が絶対に幸せにするからな。」

……力強い言葉に、私はまた新たな涙を流した。