「頼之も、信用されてないのねえ。だらしない。」

「いえ!それは違います。むしろ誰よりも信頼してます。だからこそ……頼之さんは、より幸せになれそうな新たな可能性が生じても私を不要と捨てないでしょ?それがわかってるから申し訳なくて。」
私は慌ててそう言った。

お母さまは、うーん、と少し考えてから言った。
「あおいちゃんの今の言い方だと、幸せって、アップグレードさせていくものみたい。頼之はそういう子じゃないけどな。あおいちゃんも、ガツガツした上昇志向には見えないのに。……もしかして卑屈になってる?」

お母さまの指摘通りかもしれない。
親との意志疎通が上手くいかないままの妊婦生活は、確かにつらい。

頼之さんがきてくれるのと、こうしてお母さまに会いに来ることだけが心の寄りどころ。
家では、「けがれ」だとか「恥ずかしい」だとか、聞きたくないような言葉ばかり耳に入ってくる。
そりゃ卑屈にもなる、か。
 
しょんぼりしてる私を、頼之さんのお母さまがふわりと抱きしめた。
優しいイイ香りに包まれて、涙がこみ上げてくる。

「かわいそうに。普通に結婚して、普通に妊娠すれば、出産までの期間は、大変でもそれ以上に幸せなはずなのにね。私でさえ、半年ほどは満たされてたのに。」

半年。
残りの月日は、つらかっただろうな。
信じてた夫に裏切られて。

「2人めの時は、うーんと幸せで楽しい妊娠生活にしようね。」
ん?
何か、既に過度な期待をされてる?
父親の違う弟か妹を産め、と?

驚いて見上げると、お母さまは慌てて自分の口をおさえた。
「あ、ごめん!あおいちゃんが望まないなら、いいのよ。ほんと。うん。」

……望まないも何も、まだ1人めもお腹の中。
想像もつかない、というのが本音だ。

でも、お母さまの言葉は確かに魅力的に聞こえた。
うーんと幸せで楽しい妊娠生活。
実現するといいな。

お母さまや頼之さんがそばにいてくれたら、本当にそんな素敵な妊婦になれそうな気がした。
今の罪人のような生活じゃなくて。


あれ?
……そうか。
私の母も、私をみごもってるあいだ、ずっと罪人だったんだ。

今更ながらそのことに気づき、私は愕然とした。
可哀想なヒト。

自らを追い込んで、苦しんでいたんだろうな。
てか、母も父と赤ちゃん作ればいいのに。
母はまだ39歳。

まだ充分いけると思うけど。
今なら、うーんと幸せで楽しい妊娠生活を母も送れるんじゃないだろうか。
非現実的だろうか。