それに引き替え、両親と来たら!
外聞が悪いから出産まで出歩くな、って!
何!それ!!

「逆に歩くように指導されとーねんけど。てか、出産後も隠すんや!外聞悪いし!」
母は、深く考えていなかったらしく、口ごもった。

でもしばらくの沈黙の後、母はさらに驚くべきことを言った。
「子供は、お父さんと私の子供ということにしよう。そのほうが、子供のためにも、あんたのためにも絶対いいから!あおいに、私のような後悔をしてほしくない。」

……信じられない。
今更なに言ってるんだろう。
誰がそんなことを頼んだ?

私は首を大きく横に振り続けた。
「もう……無理。」
私はそう言い捨てて、一旦自室に戻り、身の回りのものをカバンに詰めて家を出た。

「出歩くな、って言ってるでしょ!」
背中に母の言葉が突き刺さった。
私は振り返らず、返事もせずにドアを閉めた。

「うーん……あおいちゃんのため、ではないわねえ、確かに。」
私が泣きつく先は、もちろん、頼之さんのお母さま。

「ただ、恥ずかしいんですよ!私が妊娠してることが!」
くやしいより情けなくて、私はハンカチが絞れるぐらい泣きじゃくった。

「困ったわねえ。もういっそココで暮らしなさい、って言いたいところだけど……ご両親の同意がないと未成年略取になっちゃうし。」
お母さまはしばし考えて、パッと顔を輝かせた。

「あ、そっか!結婚しちゃえばいいのよ。どっちにしてもご両親の同意は必要だけど、外聞にこだわられるなら結婚のほうがずっといいでしょ?そうしましょ♪そうしましょ♪」
お母さまは私の両手を握ってはしゃいだ。

「いや、それは……」
さすがに簡単に同意しないでいると、お母さまは今度は説得しだした。

「頼之が何度もお願いしてるのにいい返事をもらえない、ってぼやいてたけど……なんで?出産までに入籍したほうがいいわよ。頼之は父親欄を空白にするつもりはないらしいけど、認知しても、数年後2人が結婚したら、転籍届を出さなきゃいけないし、めんどくさいわよ?」
いやいやいや。
「認知、って。そもそも頼之さんの子供じゃないのに。」

お母さまは、ゆっくり首を横にふった。
「頼之は最初からそのつもりなの。私もそのほうがいいと思う。」
私は言葉にならないもやもやをどう説明しようか、ちょっと困った。

お母さまは、黙って丁寧にお茶を入れてくださった。

「受験や就職の時に頼之さんの不利になりませんか?それに、大学生活が始まったら、就職したら、頼之さん、もっとイイヒトと出会うかも。その時に、足枷になりたくないんです。」
美味しいほうじ茶を飲みながら、私はやっとそう言った。

つまりそういうことだ。

今は、いい。

でも、頼之さんが新しい環境で新しい生活を始めたら、私は色褪せて見えるんじゃないだろうか。
お母さまは悲しい顔になった。