サッカー部を引退した頼之さんは、翌日から受験勉強に没頭するのかと思いきや、運転免許の教習所に通い始めた。

「受験終わってからにすればいいのに。」
「待ち時間に勉強もしてるし、問題ないけど。」
頼之さんはそう言いいながら、私の腰をさすってくれた。

「あ~……気持ちいい。」
ずっとエアコンの効いた室内にこもってるとやっぱり身体が冷えるのだろうか。
特に腰痛がきつくてストレッチや湿布でしのいでいるのだが、さすってもらう心地よさは格別だった。

「まあせっかく父親が車、買うてくれる言うとーねんし、いいやん。」
……頼之さんは、わざわざ遠方まで観に来てくれたお父さまにお礼の電話をして以来、ゆる~く交流しはじめたらしい。

「初心者のくせに新車!生意気!若葉マークの外車とかスポーツカータイプとかやめてや、恥ずかしい。」
私がそう言うと、頼之さんは失笑した。

「何のために俺が急いで免許取ろうとしとーか、わかってないふりですか?妊婦さん。」

……あ、やっぱりそういうことなんだ。
私はそれ以上何も言えなくなってうつむいた。
腰をさすってくれる頼之さんの手すら、恥ずかしく感じてしまう。

頼之さんが、楽しそうに笑って言った。
「ボルボにタカタのベビーシート付けてくれって言うたら、絶句しとったわ。」

私も絶句するわ!

「お父さま、お気の毒……」
「俺には何も言えんらしくて、母に連絡よこしてイロイロ聞き出そうとしたらしいわ。」

あ~、……あのヒトらしい。

「お母さま、なんて?」
個人的には仲良くしていただいているけど、大事な息子の相手としてはやっぱり他の男の子供を妊(みごも)ってる女はふさわしくないと思っていても当たり前。

なのに、頼之さんは私の頭をなでた。
「かわいい、って。俺も母も、あおいがかわいくてしょうがない、って。せやし一番安全なのを選んでくれって頼んだらしい。」

胸がいっぱいになり、両目から涙がこぼれた。
……実の親からは未だに得られない無条件の愛情を惜しみなく注いでくれる2人。
本当にいいんだろうか……私で。

「今、ボルボって300万から800万ぐらいらしいわ。母は父親がどのランクの車を選ぶか楽しみなんやて。意地悪いよな。」
……いや、若葉マークねんから中古の軽自動車でいいのに。

私の冷ややかな目に気づいて、頼之さんがムキになった。
「別に道楽で外車とかゆーてるんちゃうしな!安全重視!20年20万㎞。子供が成人するまで乗っとったらむしろ安い買物になりよーわ。」

「自分で買わんくせに。」
そう言いながら、また温かい気持ちになった。

頼之さんは人生設計の中に私と彩瀬の子を組み込んでいる。

言葉の端々に伝えてくれるから、私はそれだけで幸せに過ごせた。

今は頼之さんの気持ちがただうれしくて、私は救われていた。