後半、頼之さんと佐々木の敢闘賞モノの動きで得点を決めた。
が、力及ばす2対1で敗れた。

頼之さんが天を仰ぐ。

終わっちゃった。
頼之さんの、サッカー部。

……口惜しい。
勝てない相手じゃなかった。
せめて一勝、させたげたかったな。

もっと早くしゃしゃり出て、協力したげればよかった。 
こみ上げる涙は、拭っても拭ってもあふれ出た。


帰ろう。
なるべく学校の団体から離れたところを通って、帰路に就く……と、同じように人を避けてる頼之さんのお父さまと同じ通路を歩くことになって、ちょっと笑えた。

タクシーでJRの駅まで行き、再び青春18切符で帰路に就く。
車内で頼之さんからの着信を受けたけど、けっこうこんでたので出られず。

<ごめん。今、電車。電話無理。お疲れ様。かっこよかったよ。>

と、メールした。

<褒め言葉はメールじゃなくて直接聞きたい。一旦、宿に戻って、バスで帰る。夜、行くし。>

……これは……夜にもっぺん褒めろ、と?
めんどくさい奴。
そう思いつつも、頬が緩むのを自覚していた。

しかし、早朝から長時間の電車往復と真夏のサッカー観戦は、やはり妊婦には苛酷だったらしい。
私は帰りつくなり、昏々と眠ってしまった。


19時半、ドーンという爆発音で目覚めた。
「起きた?」

なまぬるい風に窓が開けられていることに気づく。
窓辺から身を乗り出して、頼之さんが夜空を見上げていた。

……そういや、今日は神戸港の花火大会だったっけ。

「見える?屋上行ったらよぉ見えよーで。」
目をこすりながらベッドから起き上がろうとしたら、止められた。
「いや。無理せんとき。あおい、貧血やろ。まだ青白いで。……せやから無理させたくなかったのに。」

頼之さんはそう言って、はにかんで笑った。
「来てくれてうれしかった。ありがとう。」

きゅんっと胸が甘く疼いた。
「……かっこよかったよ。お疲れ様。……起こして。」

頼之さんはベッドサイドに近づいてきて、突き出した私の両手を持って引き起こしてくれた。
「花火、見たい。」

私がそう言うと、頼之さんは窓際にあぐらをかいて座った。
「これなら見えるわ。来るか。」
頼之さんが私の両手を引いて、自分のすぐ前にそっと座らせてくれた。

……なるほど、音の数の半分ぐらいの花火がかろうじて見えた。
「しんどいやろ。俺にもたれたらいいから。」
お言葉に甘えて、頼之さんに体重をかける。

あったかい……いや、熱い。
久しぶりに頼之さんと穏やかな気持ちで話せてる気がする。
……てか、素直に甘えてる気がする。

頼之さんのたくましい身体も、熱っぽい吐息も、私を夢見心地にさせた。

交わす言葉もなく、窓枠の狭い夜空にたまに入ってきてくれる花火をただ見つめていた。

それだけで、幸せだった。