ああ、そうか。
夫婦以外の第三者の精子提供を受けて妊娠出産した子でもなぜか夫婦の実子として戸籍にのるんだっけ。
……そういうこと、か。

なんだか、自分のアイデンティティに自信がなくなってしまったかも。
私のこの頭脳って、作られたものなんだなあ。

てか、お母さん、お父さんが彩瀬という風俗系の女性に魂を奪われて、意地になってたのかな。

しかし、なんか、妙に納得だわ。
私をバケモノ扱いするのも、気持ち悪がるのも。
私、科学の産物なんだ。
参ったな。

自分でも自分が愛せなくなりそう。
すごく不自然でいびつな存在に感じる。
こわい。

無意識に私はお腹に両手をあてていた。

母はそんな私を見て、淋しげに笑った。
「あおいは、それでも大好きな人の子供やもんね。私よりよっぽどいい。」

「お母さん……。」
母は、私を産んだことを後悔してきたのだろうか。

ますます不安になった私を、母はぎゅーっと抱きしめた。
「ごめんね。ありがとう。まだ混乱してるけど、あおいが彩瀬の忘れ形見を妊(みごも)ってくれて、救われた気がする。」
母の言葉に、私も混乱し、虚しくなった。

結局は私の存在なんて認めてくれてない、ってことじゃないか。
私はただ、彩瀬の子供を産む道具。
この女(ひと)、気づいてないんだ。
自分がどれだけ残酷なことを言ってるか。

「本当は私が彩瀬を産みたかった。お父さんと私の子供が欲しかった。」
嗚咽する母の言葉は、どこまでも私には気持ち悪く感じた。
「やっと家族になれる気がする……あおいと。」

私の心が、張り裂ける。
唯一の血縁の母親が、私を家族と思ってなかった、ってか。

……本当に彩瀬1人だったんだなあ、私には。
生まれた時から、ううん、生まれる前から。

その時、電話が鳴り響いた。
母が私を放り出して、電話に駆け寄った。

……彩瀬、これが現実みたい。
気まぐれに抱きしめられても、すぐそっぽを向かれる。
これが、私の母親だって、さ。

「えっ!?……わかりました!すぐ行きますっ!」
母は電話を切ると、机の上のハンドバッグを掴んだ。
「病院、行くわっ!あおいもっ!早くっ!」

彩瀬が死んでしまうのだろうか。
このタイミングで?
私を置いて?

嫌だ。
行かないで。
私を置いて行かないで。

彩瀬!


タクシーで病院に駆けつけて、病室へと急いだ。
こんな時も妊婦は走ってはいけないのだろうか。
ぼんやりそんなことを思いながら。

病室の前で看護士さんが待ち構えていた。
「妊婦さん?後で誓約書を書いてください。今はとにかく急いで!コレとコレ!はい!」
私は渡されたマスクと紙キャップを装着させられて、病室に入れてもらえた。

彩瀬は苦しそうにひゅーひゅー音を立てて荒い呼吸をしていた。
胸元が大きく上下している。

「吉川!あおいが来た!おい!起きろっ!」

そう言って彩瀬の腕を揺らす頼之さんの顔も色を失っていた。