以前テレビで見たことがある。
芸妓や舞妓に付ける名前は、源氏名ではなくて芸名というそうだ。

……源氏名が意味する職業は、風俗産業……遊女……。
彩瀬は、名前だけじゃなく魔性の部分も本当の母親から受け継いだ、ということか。

「でも、私は、本気で彩瀬を……彼女を幸せにしてやりたかったんだ……」
父の懺悔はもう私の耳に入ってこなかった。

そんな言わずもがななこと!

父がいかに彩瀬を溺愛しているか、それに較べて、いかに私に対して無関心だったか。

全ての符丁が合った。

しばらくして、父は彩瀬の病院へと向かった。
小一時間ほどたってから、母が帰ってきた。
「お母さん、お帰り。彩瀬は?」

母は、病院で泣いていたのだろう……まぶたを腫らしていた。
「肺炎ですって。……小門くんが来ていたわ。あの子、本当にイイ子ね。」

肺炎?
肺炎って、普通は治る病気だと思うけど、今の彩瀬、大丈夫なの?

不安でいっぱいな私の肩を母が抱いた。
「大丈夫。お医者様がちゃんと診てくださってるから。……それより、あおい。お父さんに聞いたわ。……いつから知ってたん?」

私はここでもはったりをかました。
「ずっと。何となく。頭が、心が、兄じゃないって確信してたから。ごめんね、感覚的なものやからうまく説明できひんけど。」

……昔から母は私の頭の良さと感覚の鋭さを恐怖していたので、それを逆手にとってみた。
すると母は、ぶるっと震えてから、ため息をついた。
「恐ろしい子。我が子ながら、怖いわ。……ずっとあんたが怖かった。」

私は苦笑した。
「うん、知ってる。バケモノ扱いされてた。……彩瀬だけが私を愛してくれてた……でしょ?」

母の顔が悲しげに歪んだ。
「彩瀬は天使よね。あおいとは逆。あおいの目には責められてるようにしか感じなかったけど、彩瀬の目はいつも全てを許して求めてくれていたわ。」

「……そっか。お母さんは彩瀬にとってちゃんと本当のお母さんやったんやね……はは……そっか……私、お母さんを彩瀬に取られてたんや……」
ついそんな風に言ってしまった……私の本音かもしれない。

母は私をちょっと睨んだ。
「私は、あおいに彩瀬を取られた気分だったわよ、ずっと。」

え……それって……
「もしかして、私、お母さんの本当の子供やのに、お母さんにとっては大事な息子を奪った憎い嫁やったん?母娘じゃなくて、姑と嫁やった?」

母は私の言葉を聞いて、目を見開いて沈黙した。
2人で黙って見つめ合う。

しばらくして、母が情けない声を出した。
「……ごめん。そうみたい。」

なんだかなあ。
私は泣きたいのに笑ってしまった。
母も、変なテンションで笑っていた。

「……で、私の本当の父親は?死んだ?離婚?浮気?不倫?誰?」
何だか拍子が抜けてしまって、投げやりにそう聞いた。

母も同じように、明け透けに返事した。
「知らんわ。精子バンクで買ってんもん。」

……マジか。

私は完全に脱力した。