後半、佐々木のマークが1人になると、さすがに前半ほど上手くボールが回らなくなった。
が、鬱憤晴らしとばかりに、佐々木が縦横無尽に走り出した。

「彼、すごいね……」
彩瀬が目を細めて佐々木を見ていた。

「将来、サッカーで食べて行けるかもしれん逸材やろ?」
佐々木の猿は、1人で点を加算して勝利を確実にした。

「あおいちゃん。」
試合終了後、表彰式の始まる前にトイレに行くと、頼之さんのお母さまに声をかけられた。

「あ!ご無沙汰してます!頼之さん、やりましたね!インターハイ、本当に行けるんですね!」
ハンカチで水に濡れた手を拭きながらそう言うと、お母さまはニコリともせずに言った。
「聞いたわ。頼之から。彩瀬くんのこと。お二人のこと。ごめんなさいね。頼之、悪気はないんだけど、彩瀬くんの存在を無視して先走ってしまって……本当に失礼なことをしてしまって。」

お母さまはハッキリとはおっしゃらないが、どうやら、頼之さんの言葉が彩瀬の存在をないがしろにしたのでは、と心を痛められたようだ。

「いえいえ!頼之さんのお気持ちは本当にもったいないほどありがたいものですし、そんな風におっしゃらないでください。感謝でいっぱいです。」
私は手を振りながらそう言った。

お母さまは少し瞳を潤ませて、私をじっと見ておっしゃった。
「もし、ご両親に反対されたなら、遠慮なく我が家に逃げていらっしゃい。頼之も私も、あおいちゃんだけじゃなくて、彩瀬くんのことも大好きなのよ。いくらでも頼ってね。」

涙が出てきた私をふんわりと抱きしめて、お母さまはおっしゃった。
「頼之は戸籍ばかり気にしてたけど、大切なのは生活ですからね。あおいちゃん、いつか本当に、一緒に暮らしましょうね。」
どこまで優しいんだろう。
私は頼之さんのお母さまにしがみついて、声を殺して泣いた。
 
観覧席には、お母さまとご一緒に戻った。
両親に頼之さんのお母さまを紹介すると、ものすごく恐縮していた。
でも頼之さんのお母さまは、余計なことは一切言わず、ただ彩瀬をいたわって、自分の席に戻った。

表彰式 のあと、優勝旗とトロフィーを掲かげて、部員がスタンド席に挨拶した。
頼之さんはフラッシュを浴びて、取材を受けたり、トロフィーを持った写真をとられたりを一通りこなしたあとで、彩瀬に賞状を見せにやってきた。
彩瀬は心からうれしそうにはしゃいでいた。