「で?あおいはどうするの?本気で産む気?」
私は大きく首を縦に振った。

「……父親がいない子を?」
母の言葉に胸が痛んだけれど、私はもう一度うなずいた。

「……健常な子じゃなくても、育てる覚悟はあるのね?」
涙があふれ出たけれど、それでも私はうなずいた。

……子供の父親が誰か、バレバレなのだろう。
「どんな子でも私の愛する子です。」

私がそう言うと、母はため息をついた。
「少し、時間をちょうだい。」

……どうせ中絶する気はない。
なんなら、出産が終わるまで考えてくれてもいい。
私はうなずいて、頼之さんに頭を下げた。

「頼之さん、ありがとう。でも、お母さまの気持ちを考えたら、私、やっぱり頼之さんに甘えられへんわ。」

「……子供には父親が必要や。俺は吉川の次には好かれとるんやろ?俺にしとけって。戸籍だけでも俺を利用しろよ。」

……もう……。
かっこよすぎるってば。

「……しっ。彩瀬が起きたようだ。」
父の言葉で、私たちは口をつぐんだ。

しばらくの沈黙の後、彩瀬が部屋に入ってきた。
「おはよう。あれ、小門くん。遊びに来たの?」

「ああ。昨日の疲れはないか?明日は絶対勝つから、しんどかったら来んでもいいしな。」
頼之さんのいたわりに、彩瀬は晴れやかな笑顔を見せた。

「ありがとう。でも、昨日楽しかったから。あーも見たいよね?」
「……うん。インターハイはさすがに遠くて行けへんやろけど、ね。」

彩瀬が行くと言いそうなので、先に牽制しておいた。
インターハイは8月。
……真夏の真っ昼間のゲームなんて絶対に無理。

それ以前に、あと2ヶ月。
彩瀬は生きていてくれるのだろうか。
私はまた涙が出そうになるのを必死で我慢していた。


翌日の決勝戦は、三木市の競技場で13時に始まった。
頼之さんの予想通り、佐々木は完全にマークされていた。

まあ、そうだろうな。
うちが、佐々木のワンマンチームなら敵さんの思い通りにいったろう。

でも、要(かなめ)は頼之さん。

佐々木の過分なマークを逆手に取っての進撃。
いわば、佐々木をスケープゴートにしての試合運びだ。

「佐々木の猿、脳みそ沸騰させて怒っとー。自分で何とかできたらほんまもんやけどな。」
ついニヤニヤ笑ってそう言うと、彩瀬に窘められた。
「あー、失礼だよ。応援したげないと。ずっとピッタリ張り付かれて可哀想じゃない。」

実際、佐々木には常に2人、ボールが来そうになるとさらに1~2人が飛んできた。
「その分、他が手薄になるから大丈夫。すぐ点が入るわ。」

そうこう言ってるうちに、頼之さんは佐々木についたマークを翻弄しつつ、他の部員にシュートを打たせて得点を重ねた。